第78回:新マリーナ経営法 その1
更新日2003/02/06
イスレタマリーナに新しい経営者がやってきた。
イスレタには4人のオーナーがいるがあまりの経済効率の悪さにサジを投げたかのように、マリーナ全体をリースし、経営全般を期限付きで譲り渡したのだ。
これまでにも何度か、新しいマネージャーを雇い入れたり、ハーバーマスターを連れてきたり、無駄な努力はしていたが何一つうまくいったためしがなかった。
経理を担当している、ミニチュアナポレオンのような姿カタチのルイスが一応マリーナを取り仕切っていた。が、マリーナで働く人は皆ナポレオン・ルイスを小馬鹿にし、誰もナポレオンの言うことを聞かないのだ。
ルイス自身も誰に挨拶するでもなし、毎月マリーナ係留料を払いに行っても、「ありがとう」の言葉もない。ルイスが私の名を覚え、「サーノ」と呼ぶのにたっぷり2年かかった。
日本人とみると経済能力大いにありと見なされる宿命にあるらしい。オーナーの一人はプエルトリコのブリジストンタイヤのディーラーで日本通だったし、もう一人は弁護士のヨット狂なので、週末に顔を合わせれば立ち話しをし、ドックボックスに腰かけてビールを飲み交わしたりした。
そのうち、日本で誰かこのマリーナを買う人はいないか、お前、このマリーナやってみないかという話になった。そこでナポレオン・ルイスに帳簿を見せてもらって、驚いた。
係留しているヨットの4分の1が係留料を全く払っていないのだ。オーナーが4人いるから、まず彼らの船は無料、加えて、彼らの親戚一同とは言わないが、オーナー一人に付き2、3隻はオーナーの顔を立ててタダ、マリーナの顧問弁護士もタダ、マリーナで働いている人、フェリーキャプテンなどのヨットもタダ、さらに払う必要があるが、限りなく滞納し今後も払う意思のなさそうなのが15、16隻、ヨットを係留したまま持ち主の行方が知れないものが5、6隻、空いているバースに他のヨットが入ってきたらすぐに移動するという条件で半永久的に居座っているのが5隻、ルイスの帳簿に載っていないが実際に係留しているヨットも数隻ある。真面目に月々払うのが馬鹿らしくなるような経営内容なのだ。
こんなマリーナの経営を受けて出る物好きが現れたのだ。
アンドレは200トンほどのサルベージ専用の船を持つスイス人だ。もう60歳の坂はとうに越え、70歳に手の届く歳だが、姿勢がよく、後姿は40歳くらいに見える。分厚いボトルメガネの奥に青灰色の特大の目が池のように澱んでいる。
彼の作業船は、「沈んだ船を引き上げるか、アンドレのサルベージ船の方が引き下がり、先に沈むか」と言われるほどの老朽船で、鉄板のパッチだらけのデコボコでどの部分が本来の船体なのか誰にも分らない。あまりにつぎはぎ作業が多いので、溶接工を乗せている。ハリケーンが定期的にやってくるのでサルベージ業はうけにうけているのだ。
アンドレがイスレタマリーナのマネージメントを引き受けたと知ったとき、マリーナの連中はこれでマリーナの設備は補修が行き届き、よくなると期待した。なにせアンドレは作業船を持っているから、ハリケーンでダメージを受け半壊したコンクリートの桟橋、乱食い歯のようになっているコン柱、浅くなってきた入り口なども、すぐに改善される、間違っても今より悪くなることはないと誰しも思った。
アンドレはオンボロサルベージ船を操ってやってきた。マリーナの入り口近くの桟橋に彼の作業船とサポートの船2隻が横付けされ、赤茶に錆びた超重量クラスの機械、道具類が堤防に並んだ。
そこはイスレタマリーナと外の海とを隔てている細長い砂洲になっているところで、マリーナの唯一の芝生があり、きれいな外の海で泳げる砂浜だったが、サルベージ用の物置き場になってしまった。
マリーナに大型の作業船は全く似合わないものだ。
その2へつづく…
第79回:新マリーナ経営法 その2