■貿易風の吹く島から〜カリブ海のヨットマンからの電子メール

佐野草介
(さの・そうすけ)


道産子。小学生の時、フランス人4人がヨットで世界1周する記録映画を見て、人生の針路を決定する。水上生活者として20余年。前半は地中海、後半はおもに大西洋とカリブ海で暮らす。現在はカリブの砂州、カージョ・オビスボにヨットを舫い棲家とする。



第79回:新マリーナ経営法 その2
第78回:新マリーナ経営法 その1
第77回:処女航海 その2
第76回:処女航海 その1
第75回:ウエーブ・ダンサー その5
第74回:ウエーブ・ダンサー その4
第73回:ウエーブ・ダンサー その3
第72回:ウエーブ・ダンサー その2
第71回:ウエーブ・ダンサー その1
第70回:カリビアン・クイーン
第69回:クレブラ島
第68回:食は易し
第67回:椰子の木
第66回:イスレタ島人物伝 その4 〜 リチャードとレネ
第65回:イスレタ島人物伝 その3 〜フェリーキャプテンたち
第64回: イスレタ島人物伝 その2 〜ポリート
第63回: イスレタ島人物伝 その1
第62回: チュパカブラ
第61回: 裸の船
第60回: 悪役 その3
第59回: 悪役 その2
第58回: 悪役 その1
第57回: ただ憧れを知る者のみ
第56回: なにがヨットを危険なスポーツたらしめるか
第55回: "怪 談"
第54回:シーマンシップと保険 その2


Caribbean Sea Map


Puerto Rico Map

■更新予定日:毎週木曜日

第80回:新マリーナ経営法 その3

更新日2003/02/20


マリーナの機能面での改良は皆無だった。マリーナへ入港するところが浅瀬になっていたが、この鬼門はそのまま掘り下げられることもなく、マリーナをよく知らないヨットは必ずのし上げた。 

アンドレのサルベージの仕事を作り出すため、故意に掘らずに放ってあるとしか思えないほどだ。船を結ぶためのコンクリートの柱が抜けたり、傾いでいるのもそのまま、沈んだ船やヨットがマリーナの周囲に堆積するにまかせ、地元の新聞が“船の墓場”と写真入りで報道したほどだった。

アンドレに何度か簡単な補修を、例えば桟橋のクリート(船を舫う金具)がグラグラに緩んでいるから付け直して欲しい、というようなことを頼んだ。最初のうちはアンドレもフムフムと聞いていた。が、もちろん何もしてくれはしなかった。 そのうち、「マリーナのことはマリアに任せてあるから、マリアに言え、俺はサルベージ業だけだ」とやりだしたのだ。 

イスレタのヨッティーの間で、どうにもならない事態が起こった時、「オオ! アベ マリア!」と嘆息するのが流行り出した。 

アンドレがマリーナの改善、経営に全くなんの意欲も持っていないこと、自分の作業船をタダで係留でき、機材置き場が欲しかっただけなのがはっきりしてきたのだ。加えて、自分より20、30歳若い女房に全く頭があがらないことも明白になった。

彼が来て2ヶ月も経ったころから、マリアの歩き方、話し方が普通でないのが目につき出した。足腰がふらついているのだ。その異常に高いハイヒールのためだけではなさそうだった。 

あるとき緊急用のフェリーキャプテンをやってくれないかと持ち掛けられたのを、“ご辞退”をしにマリアの事務所に行ったところ、アルコールと香水と薬品とが混合した臭いが鼻をついたのだ。

マリアの目は赤くよどみ、厚い化粧の下に土色のすさんだ皮膚が覗いていた。二日酔いを薬で抑えようとしたが、やはり迎え酒が一番とばかりに聞こし召したようだった。

じきに、酒の息がマリアの香水の香りに勝るようになってきた。お昼過ぎには、すでにでき上がっている日が多くなってきたのだ。アル中の症状が日に日に強く現れ出し、と同時に隠しようもないほどマリアの下腹がふくらみ始めたのだ。

すでに孫のいるマリアの妊娠は恰好のゴシップになった。「なんせ、マリアって言うくらいだから、セックスせずに妊娠できるんだろうよ」「宅急便の配達兄さんが、怪しい」「アンドレのバイアグラが効力を発揮した」などなどが飛び交った。こういった噂はどこでも拡がり易いが、イスレタではとりわけ歓迎される。

ある暑い日の昼、マリアは見晴らしのよい自分の事務所のある2階の階段から酔って転げ落ち、フェリーにアルコールの臭いを残し救急車で運び去られた。

こうして1年におよぶ、アンドレ・マリア時代は幕を閉じたのだ。彼らがイスレタに残したのは、混沌とコンクリートの立派な門と、それに張り付ている錆の目立つ動かないオープンゲート、吹きさらしのパゴダ待合所、使われることのなかった、マリーナサイドの三つのフェリー乗り場だった。

ただ一つ、マリアがマリーナの事務所につけた最新のエアコンだけは今も動いている。マリネーロたちが涼みにきて、そこに居座る傾向はあるが…。

ニボをはじめ、イスレタマリーナの古株が戻ってきた。時代の流れが止まるだけでなく、イスレタでは逆流することもあるのだ。 

アンドレの作業船は、係留料を滞納しながらイスレタに居座っている。

 

 

第81回:宝島

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