第84回:女の武器
更新日2003/03/27
ハリウッド映画で40歳以上の女性が主人公になっているのは、皆無に近く、4%以下だそうだ。男優の方は年老いてマスマス盛んな、メル・ギブソン、ロバート・レッドフォード、ハリソン・フォード、アンソニィー・ホップキンスなど、50代、60代どころか70歳で活躍し、名前だけで客を呼べる男優が幾人もいる。
これはハリウッドが、若さにハチキレンばかりのグラマラスな肉体、顔に頼って安直な女優の売り出し方をしているのだから、40歳を過ぎたらお払い箱になるのは当然ともいえる。アメリカはヨーロッパに比べ大女優が育ちにくい土壌のようだ。
先週、82フィートのヨットをフロリダから日本まで回航するため、キャプテンとクルーを公募したところ、応募してきたヨット乗りのなんと3分の1が女性だった。彼女らは一様にレベルが高く、経験も豊富で、安心して船を任せることができそうだった。
周りのヨッティーやメガヨットのオーナーも口を揃え、女性のキャプテン、クルーの方が最近は男より質が高いと一致した意見だった。ヨットの上での女性の仕事が、スチュワーデスやコックだけだった時代は遠の昔に過ぎ去ったようだ。
もともと男オンリーの仕事だった船乗りに入ってくる女性は、初めから強い意志と情熱を持っているのだろう。
10年も前になろうか、フランスを代表する女性の外洋レーサー、イザベル・オートシューが3人の男性クルーを乗せ、ニューヨークからケープホーンを回り、サンフランシスコへの新記録を打ち立てことがある。
アメリカ人のインタビューアーが女性のキャプテンの下で働くことをどう思うかと尋ねたところ、インタビューを受けたクルーは一瞬、質問の意味が飲み込めなかったようだ。しばらく間を置いてから、なんと馬鹿な質問をするのだという軽蔑と戸惑いをフランス流のウィットに隠し、「大
きなダミ声で叫ぶ男のキャプテンより、イザベルの声の方がはるかに耳に優しい」と答えたものだ。
アメリカでウーマンリブの動きが多いのは、アメリカが存外マッチョ社会だからだろう。
女性だけのクルーで世界一周レースやアメリカズカップもすでに戦われてきた。アメリカズカップでは最終的には男のナビゲーターを乗せ、ウーマンオンリーの路線は崩れ、一部のヒンシュクをかった。
2004年から2005年にかけて行なわれる世界一周レース、“Global Challenge”に女性のみのチームが参加しようとしている。しかし資金が思うように集まらず、彼女らは非常手段に打って出た。クルーのフル・モンティ(すっぽんぽん)のポスター、カレンダーを売りに出したのだ。
プレイボーイ誌やファッション雑誌の病的なモデルを想像してもらっては困る。南氷洋、ケープホーンを回る潮焼けした逞しい女性たちがハニカミながら裸で映っている。価格は10ポンド、ご希望の向きはnaomi@halsgrove.com
へ。
ヨット界に待望の大スターが現れた。イギリス女性、エレン・マックアーサーは身長155-156センチ、丸顔でまるで田舎のオネーチャン風の容貌から想像できない偉業を次々とやってのけたのだ。
世界一周シングルハンド(一人乗り)レースで2位、イギリス一周レースで1位、ラム酒の道大西洋横断レースで1位、史上最も過酷なレースで好成績を収め、スターダムにのし上がったのだ。
エレンは女性であること、イギリス人であることにあまり拘泥(こうでい)していない。フランス人とバディー(相棒)を組むことあれば、あらゆる国籍の人間をクルーとして乗せ、ともにレースをする。
今回、エレンは『80日間世界一周』の作者、ジュール・ベルヌにちなんだ世界一周の記録に、110フィートのカタマランで挑戦したのだ。現在の記録は64日8時間37分。
エレンのヨットには13人乗り組んでいるが、キャプテンのエレンがタダ一人の女性で、しかも一番若い26歳。クルーの最年長は45歳で、他は30代、40代の男性ばかりだ。イギリス人4人、フランス人4人、オーストラリア人3人、アイルランド人1人の構成である。
女性であることを武器として活躍するのは、華やかな彩りを添えはするが、海はそんな微細なことに頓着しない。エレンは誰よりもヨットを速く走らせるという一点において優れているだけなのだ。そしてそれ以上の武器はない。
追伸: エレンの巨大なカタマランは、南氷洋でマストを折ったが、無事自力で、オーストラリアのフリーマントルに入港した。
第85回:グラン・ブルー