第38回: ドラッグ天使
更新日2002/04/25
プエルトリコの首都は「サンフォアン」だが、プエルトリコ人がサンフォアンと呼ぶ時、お城のあるほんの小さな旧市街だけをさす。首都圏としてのサンフォアンは、カロリーナ、トアバハ、ツウヒージョアルト、グアイナボ、バヤモン、などの行政市を含み、人口160万におよぶ大都会である。
ゾーンニング意識が強く、グアイナボに住んでいると言えば、「ホォー、なかなかお金持ちで結構な暮らし向きですなー」ということになるし、バヤモンに住んでいると言えば、狭く混み入った労働者クラスの地区で犯罪も多く、「よくそんなところに住むことができるねー」といった態度が相手の表情に見え隠れする。
実際にバヤモンが貧民窟や犯罪の巣窟であるわけではないが、イメージの上でグレードが格段と下がる地域なのは確かなことだ。バヤモンの中心はサンタ ロサ・ショッピングモールだが、アメリカ的な大きな駐車場を備え、アメリカのデパートや店舗がエアコンの効いたビルの中に並んでいる。その真向かいには、ネメシオ・カナリスの4階建ての公共住宅、日本風に言えばマンション並の住宅が広びろとした間隔で並んでいる。
そして、交通量の多い、街道2号線に面した62号棟の横の壁全体に、白いユニコーン(一角獣)に白衣を着てまたがり、今まさに宙に飛び立とうしている男の、巨大ではあるが拙幼な絵が描かれている。この男の名は「カルラタ」。彼はネメシオ・カナリス、公共住宅の英雄なのだ。カルラタは、この地区のドラッグ王だったが、殺人と麻薬販売で40年の刑に服している。
カルラタの妻ジョランダは、縄張り争いから敵対グループのヒットマン、オミに殺された。その2週間後、カタラタはオミを殺し、敵のボス格のロドリゲスにも13発の銃弾を撃ち込み、妻の復讐を果たした。島の人間は、復讐談を異常に好む。彼は英雄になり、伝説が生まれた。まるで公共住宅の住民1,150人全員が、彼を崇拝していたかのように報道され始めたのだ。ドラッグの儲けを住民皆に分け与えたとか、ドラッグを売らせたが、使わせなかったとか、まことしやかに語られるのだ。
プエルトリコは、コロンビアからのドラッグの一大中継地で、捕獲される量もハンパでない。コカイン20トン、30トンが通常の単位のようだ。コロンビア沿岸から、たった600キロ程の距離だから、スピードボートなら1日、軽飛行機なら2時間とかからない。一旦プエルトリコに入ってしまえば、フェデラルエックスプレス、UPSなどの宅急便、郵便小包み、航空貨物に紛れ込ませるのは到って容易なのだ。
コロンビアからの荷物は、飛行機やボートでプエルトリコ海域まで運ばれ、示し合わせた場所に落とし、それをプエルトリコから漁船、プレジャーボートを装い拾い上げる手をよく使う。 年に2、3度拾い損ねた1メートル立方位の麻薬パッケージが、我々のマリーナに流れ着き、平和な我が小島に警察、FBI、報道陣が押しかけてくる。この小包みを拾い損ねたご人は、針金で縛られ、車ごと焼かれる運命にあるそうだ。
年間約1,000件殺人があり、80から90パーセントがドラッグ絡みだと言われている。1日平均3人以上殺されている計算になる。昨年のワールド・トレードセンター爆破以降、旅客だけでなく、すべての貨物の出入りが厳しくなり、プエルトリコに入るドラッグが激減したのに伴ない、プエルトリコの高級車、豪華パワーボート、不動産、貴金属の売上が極端に落ち、潰れる店舗が出始めた。島の経済の半分位は、ドラッグがもたらしているとまでいう分析さえある。そして残りの半分は、米国政府からの援助だと、口さがない連中は言うのだ。
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