■貿易風の吹く島から〜カリブ海のヨットマンからの電子メール

佐野草介
(さの・そうすけ)


道産子。小学生の時、フランス人4人がヨットで世界1周する記録映画を見て、人生の針路を決定する。水上生活者として20余年。前半は地中海、後半はおもに大西洋とカリブ海で暮らす。現在はカリブの砂州、カージョ・オビスボにヨットを舫い棲家とする。



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Caribbean Sea Map


Puerto Rico Map

■更新予定日:毎週木曜日

第89回:無国籍化と国際化 その1

更新日2003/05/01


海に浮かぶ乗り物は必ず、どこかの国に登録しなければならない。船籍というヤツで、船尾と船腹に国と町の名前を書き入れ、その国の旗を掲げる。

ヨットには郷土愛に結びついたお遊びも許されるのだろう、プエルトリコは独立した国ではないが、90%以上の船はプエルトリコの旗を揚げている。コルシカ島はフランス領、サルジニアはイタリア領だが、それぞれの島の旗を掲げているヨットが大多数だ。

長年クルージングしている、古強(ふるつわ)者のヨッティーは船籍を便宜的なものと取る傾向が強い。訪れる世界中の国々に受け入れてもらい易い船籍、書類手続きの簡単な国に自分のヨットを登録するのだ。ヨッティーにとって国はこちらの都合により選ぶものなのだ。

私たちが最初に持ったヨットは、前のオーナーの船籍をそのまま引き継ぎオランダ船籍のままだった。このオランダ船籍は便利だった。政治的に国際問題を起こし、小国から悪感情を持たれることもないし、赤白青の3色旗は横ジマ(フランスは縦ジマ)なので、自作の旗を長めに作り、巻いておくと、風にはためき、端がいたんできたときに、その先端を2、3センチ切り、巻いておいた部分を引き出して使うことができる、経済的な旗のデザインなのだ。

次に持ったヨットは、アメリカ船籍にした。スペインのマジョルカ島でヨットを買ったとき、日本に着くまでの便宜的な登録をするのだけなのに、まるで何万トンの本船と同じ扱いの書類を提出しなければならないことが分かり、連れ合いの国の船籍にしたのだ。

アメリカ人はお金持ち、フンダンに冷えたコカコーラとビール積んでいると見なされるのはよいとしても、力があり過ぎてヨーロッパ、カリブで嫌われる傾向がある。船籍はアメリカだが、旗を揚げたこともないし、第一旗を持っていない。オーナー、キャプテンの国旗を右舷に上げることになっているが、日本の旗も持ったことがない。

80フィート以上の大型ヨットになると、また別の理由から船籍を選ぶ。これらのヨットの大金持ちオーナーは節税のためにヨットを税金の少ない、もしくは税金のない国に登記するのだ。

150フィートから200フィートのヨットで、オーナーの国籍と船籍が同じなのはアラブ諸国以外、まず珍しい。それらの超大型艇は、パナマ、チャネルアイランドのガンジー、ケイマン、英領ヴァージン諸島、ジブラルタル、マーシャル諸島などの旗を揚げている。

ショーバイの関係で、フロリダのボートヤードに10日ばかり通い詰めることがあった。

フォート・ロダデルは、マイアミの北30キロにあるヨットのメッカだ。そこの大手のボートヤードの一つにいたのだが、働いている人の半数はスペイン語を話す人たちだった。キューバ人が主役だが、中南米人、スペイン人もいる。

スペイン語を話せない二世ではなく、皆英語よりスペイン語のほうが楽な中年の一世たちだった。残りの4分の一近くはアジア人でベトナム、カンボジア、フィリピン人らだ。もちろん白人もいる、アメリカ人は主に事務所に、そのほか現場監督のような地位には南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア人が就いている。黒人は一人もいなかった。

昼食時にはそれぞれのエスニックグループごとに集まり、かれらの言葉で歓談している。キューバ人の屋台トラックがきて、お国の料理を運んでくる。

私の関係していたヨットがどうにか仕事を終え、水に戻してから関連した人を集めて簡単なビールパーティーを持った。キューバ人らのスペイン語系の人、アジア系の人に加え、電気はフィンランド人とドイツ人、エンジンメカニックはニュージーランド人、冷凍冷蔵庫はジンバブエ人、木工ニスはトリニダッドトバゴ人とブラジル人、キャプテンはアイルランド人、マストはセイシェル人で、この日集まった14人のうち、生粋のアメリカ人は一人だった。

早くて、良い仕事をすれば、国籍人種には拘泥しない、アメリカの寛容さとそこから生まれるダイナミックなエネルギーを見る思いがした。

アメリカのスポーツが全世界に広がったのは優れた外人選手をどんどん呼び入れたことが一因だし、ノーベル賞の受賞者でもアメリカ人、もしくはアメリカで研究の場を与えられた外国人が圧倒的に多いのは、そんなところに理由がある。

たった一人のアメリカ人は、「ここでは俺がマイノリティーさ、自分の体と手を使って仕事をすることをアメリカ人は忘れているからね。」と言ったが、彼の爺さんかそのまた爺さんが野心を抱いてアメリカにきてアメリカ人になったように、今また、この盛大な多国籍集団も新生アメリカ人なのだ。

 

 

第90回:無国籍化と国際化 その2

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