第4回:カリブのお国事情
更新日2001/05/03
カリブ海の名は広く知れ渡っているが、実際、カリブにどんな国があるのかは存外知られていないようだ。私自身、ここに来るまで島々の名も知らず、地理的感覚もまったくなかった。
コロンブスがカリブの島々をインドの一部だと死ぬまで思い込んでいたところから、今でもカリブは西インド諸島と呼ばれている。時計周りに北から行けば、米国フロリダ州のすぐ南にキューバがある。さらに南に下ると、ケイマン、ジャマイカ、東に向かえば、バハマ、ハイチ、ドミニカ共和国、タークスカイコス、プエルトリコ、米領ヴァージン諸島、ブリテシュヴァージン諸島と、この辺までは耳にする地名が多いかもしれない。
しかし、ここから一つの国と呼ぶにはあまりにも小さい島、しかし歴然とした国家なのだが、そんなミニステイツが続く。セント・マーチン、アングイーラ、セント・バーツ、セント・エウスタシア、セント・クリストファー、ニヴェス、モンセッラ、アンチグア、フランスの海外県グアルダルペ、ドミニカ(先のドミニカ共和国とはまったく別の国)、その南に、また仏領マルチニク、サンタルチア(イタリアとは無関係)、セント・ヴィンセント、グラナデネス、グレナダ、バルベイドス、トリニダッド・トバゴ、ヴェネズエラの北に点在するヴェネズエラ領の島々。さらに、旧オランダ領だが現在はそれぞれ別個に独立したボナアエアー、キューラソウー、アルバ、と続く。
以上は国だが、他にそれらの超ミニ国家に属する自治領のような島がある。この島の人々に言わせれば「我々はれっきとした独立した国だ」と主張する。
これらの超ミニ国家が国である以上は独自の法律を持ち、警察があり、税関がある。どうにか通貨だけは、東カリビアンドルと称する共通貨幣が存在し、仏領以外の東カリブの島国で流通している。レートはおよそ米ドル1に対し、東カリビアンドル2の割合である。しかし同時に米ドルも広く使われている。そこが問題にもなっている。観光客やチャーターヨットの人々からは米ドルで料金を取るという慣習は、時によって2倍ボラれる可能性を生んでいるのだ。
我々のような貧乏ヨット乗りにとって面倒なのは、たった50〜60マイル離れた隣の島へ移ればそこは別の国であり、そのたびに出入国の手続きしなければならないということだ。通関料やクルージング許可証、港湾料、時間外手当、書類代、袖の下、などなど、少なからぬ出費を強いられるのである。
ヨットで入国するときは、その国の旗を右舷に揚げ、そのすぐ下に黄色の旗、Q旗(検疫、通関未通過)を揚げる。所属のヨットクラブなどがあれば、それをマストのてっぺんに、さらに船籍国の旗はヨットの後部に、乗組員の国籍の旗は、キャプテンを頭に上から順にランキング従って左舷に揚げる。
入国できるのは、管理事務所のある比較的大きな港か入り江に限られる。そんな港に入り錨を下ろしたら、ガイドブックに書いてあるように、無線で税関を呼ぶ。しかし、無線の設備を持っているところは少ないし、持っていたにしろまず返答してくれない。そこでパスポートやヨットの登録船籍証、前の島の出国書類をビニールの袋に入れ、テンダー(足舟)を漕いで上陸し、お役所周りすることになる。
セント・ヴィンセント島からグラナデネス島へ移動した場合を例にとると、まず税関である。セント・ヴィンセント国の最南端のオープンポートは、ユニオン島のクリフトン湾なるところだが、そこで出国手続きをする。ユニオン島は飛行場のある(6人乗りセスナが着ける)開けた島である。滑走路を横切り、税関に赴き、2ページに及ぶ、しかも細かい文字の申告書を書き、20.45東カリビアンドルを払う。はんぱな0.45ドルは書類の用紙代である。そこから、移民局へ行き、パスポートに出国の判をもらう。これはタダである。
つぎは海辺に戻り、港湾管理局のハーバーマスターに行き、出港の許可をもらう。入港の時届け出なかったので絞られるが、今すぐ出るのならまあ許してやるといったお情けで必要な出国手続きを終える。彼らにはビールでも飲みな、と10ドルばかりを渡してやる。
そして、今度はほんの5マイルばかり離れた隣の国グレネダ最北端の島、カリアクーのヒルスボロー湾で入国のお役所まわりをするのだ。
こう書くと、そんなことは何処の国へ行こうと当り前のことではないかと思うかもしれない。しかし、カリアクーの税関はずいぶんと勝手が違う。
腐りかけたちっぽけな木の桟橋の付け根に建てられた、桟橋と同じくらい老朽化して傾いた3メートル四方ほどの小屋であり、建物の中では大声をあげながら人々がトランプに興じている。このうちの一人もしくは、何人かが税関の役人なのだ。
その小屋の開け放たれたドアをノックし、精一杯明るく、「チェックインしたいのだが」と告げる。彼らは何か嫌な物でも見るように、チラと目をあげる。それが返答である。しかたなく、トランプを配り始めるタイミングを見計らって、もう一度書類をくれるよう慇懃に要求する。前歯がきれいさっぱりなくなった、恐ろしいブ男が書類を投げてよこす。桟橋に出てその書類を書き、またトランプの間断を衝くように提出しすると、手数料20ドルをふんだくられる。これが通関業務である。
移民局は30軒ばかりのバラックが立ち並ぶ村の中央にあり、まるまると太ったおばさんが、「ここで待て、今すぐオフィサーが帰ってくるから」と甲高い声で教えてくれる。待つこと40分。目当てのオフィサーがやってきて、パスポートにスタンプをもらうわけだが、料金の17ドルにもう20ドル加算して請求される。この20ドルは我輩の時間外勤務料だというのである。「ヨットは14時15分に入港し、通関手続きも15時30分に終えている。しかもここに来たのは16時前であるから時間外料金は払わない。遅れてきたのは、貴方のほうである」と抗弁する。無駄だと知りながら、言うべきことは言っておいたほうがよいと抗議はしてみるが、所詮カリブの小国の役人には勝てないのである。
カリアクー島のクルージングはこうして始まるのだ。
第5回:グリーンフラッシュ