第14回:クバグア島〜その1
更新日2001/07/13
1997年8月5日にカリブの島、モンセラット島の火山噴火が始まった。首都のプリマスは山裾に広がり、そのまま海へズリ落ちたような人口11万人ばかりの、静かな町だったが、シンシンと降り注ぐ火山灰と、大きな爆発の可能性から、強制退去命令が出され、無人の町になった。
カリブの島々は、火山活動の結果生まれた環状の列島なので、そのハードな自然環境が絶景を造りだしもするが、時折、忘れた頃を見計らうように暴発することがある。話は古いが、1902年にマルチニク島のペレー山が突如爆発し、山の西側に位置していた当時の首都セントピエールが溶岩と火山灰、それに伴う大火で焼け、全滅した。当時の人口は28,000人で、800席の本格的な劇場を持つカリブ唯一の文化都市と呼ばれていたが、その後フォートドフランスに地位を奪われて、過去の町になった。セントピエールはカリブの町としては珍しく、緻密な都市計画によって造られた石の街だったので、その街並みが遺跡として残ることになった。ごく小規模なポンペイが出現したのだ。すぐ北隣のドミニカ、南隣のサンタルチアが今だに貧困に喘ぐ植民地後遺症を強く残しているのに比べて、100年前にすでにこのような都会があったのは奇蹟にちかい。
話はまたさらに古くなるが、スペイン黄金時代の町の遺跡がベネズエラ領クバグア島にある。スペインが南米に築いたもっとも初期の街ヌエヴァカデツ(新カデツ)である。ヌエバカデツの街は1522年頃に造られ、1551年の地震と津波、そしてそれに伴う地盤沈下によって全体の7割が水面下に沈み、陸上も廃墟と化し、再建されることなく忘れられた。
クバグア島は南北に2キロほど、東西に7キロばかりの平らな小さな島だ。スペインがこんなチッポケな島に石造りの本格的な街を築いた秘密は、塩と黒真珠にある。塩は、広大な植民地を維持するために、また旧大陸へ帰る船の保存食、塩漬けの魚、肉を作るために欠かせないものだった。人々はこれらを近辺の島々から小船を使って集め、ここクバグア島のヌエバカデツから積み出した。記録によると黒真珠は大型で、しかも漆黒に近いものが採れ、ヨーロッパの王侯たちに人気があったらしい。
ラスカサスという名のカソリックの坊さんが「インデアスの崩壊に関する簡単な報告」と題した一冊の本を残してくれた。ラスカサスは、ちょうどヌエバカデツの短い全盛時代に生き、黒真珠を採るために侵略者たちが原住インディオをいかに酷使し死に至らしめたかを書き残した。この報告書は時の王カルロス5世に宛てて書かれた、いわば直訴状で、原住インディオの惨状を訴え、コンキスタドールたちの残虐な行いを阻止しようという意図のもとに書かれたものだ。当然のことだが、人道主義とか良心という、こうした現実的な利益を一向にもたらさない思考は無視された。それは今も変わらないが。
インディオは絶滅し、この報告書は残った。文字を持たぬインディオの記録は少なく、絶滅の悲惨を知るための数少ない史料は、侵略者に同行した坊さんが書いたモノという歴史の皮肉がここにある。そして、聖書のなかの物語のように、天は突然、懲罰を下したのだった。ヌエバカデツは一夜にして消え去った。もっともこの場合の天はインディオの神であって欲しいものだが。
第15回:クバグア島〜その2