■貿易風の吹く島から〜カリブ海のヨットマンからの電子メール

佐野草介
(さの・そうすけ)


道産子。小学生の時、フランス人4人がヨットで世界1周する記録映画を見て、人生の針路を決定する。水上生活者として20余年。前半は地中海、後半はおもに大西洋とカリブ海で暮らす。現在はカリブの砂州、カージョ・オビスボにヨットを舫い棲家とする。




Caribbean Sea Map


Puerto Rico Map
第16回:人は何によって生きるか

更新日2001/08/09 


もちろん、各々の嗜好はあるにしろ、水を含めた食べ物によって生きているのである。ここで人間は食べ物のみで生きる動物ではなく、云々と展開するつもりはないので、安心して先を読んでもらいたい。

国籍や人種とは無関係に「ヨッテイー」と呼ばれる一種族がいる。ヨッテイーとは大雑把にいえば長い期間ヨットで大洋をウロツイている人種のことで、まあ3年以上ヨットに住み、コンスタントにクルージングをしていなければ、その名に値しない。ヨットを持ってはいるが、さっぱりセーリングをしない者や、週末だけチョロッと出て自分のバースに帰ってくる輩は、ヨットゴロ、ウィークエンダーと呼ばれ、「あいつはヨッテイーじゃないから」というひと言で格付けされる。

何がヨッテイーをして、ある種の共通した性格を明確に形作くっているのか、謎めいているが、結果として違いが出てくるのは確かなことだ。自給自足に近い生活を続けることによって生まれる独自のライフスタイルが自然と表面に出てくるのだろう。ヨットには発電所(エンジン、ジェネレーター、太陽電池、風力発電)、上水道(雨水を集める装置、清水タンク、ポリタン、ウオーターメーカー)、下水道(排水ポンプ、汚水タンク)など、限られた期間であるにしろ自給自足可能な生活ができる設備を持っている。外洋向きに作られたものなら、ヨットの大小にかかわらず、外からの補給に頼ることなく、60日位は独自ですべて賄うようにできていなくてはならない。

ここからがツライところだが、ヨットよりもそれに乗る人間のほうに問題が多いのだ。ヨットなどお金を出せばすぐに買えるのだから。 まず自給自足的な生活に向いているタイプと、適応するのに時間がかかるタイプ、もしくはまったく適応できないタイプの人種がいるのだ。自分がそのような生活に向いているかどうか、実際に体験してみるまでわからない場合が多い。

ヨットは、乗り手がどんな素養を持っているかが肝心で、乗る側に海上での長期キャンプ生活を受け入れる下地があり、ほんの少しの冒険心と、モノを修理する便利屋的素質あるなら、あとは海に出てしまえば、自然、他に頼らない精神が育ってくるもののようだ。ともかく、いったん海に出たら、自分以外に頼る人がいないのだから。もっとも、はじめから、憧れがつよく、楽天的な人間、どこか大人になり切れない者がヨッテイーとして、いつまでも海をうろついているだけだともいえるが。

もう一つの陸の生活との違いは、行動が極端に短絡的なことだ。魚を釣るのは楽しみというより、食べるため、セールのホコロビを縫い直すのは、強い風が吹いたときに破れないため、リギンやロープの擦れをチェクするのは、それらが高価なためでもあるが、壊れたり切れたりし、惨事を引き起こさないためと、仕事の目的が、異常に近くあり、結果がはっきりと見えているのだ。それがヨットの生活全般に渡るとなると、短絡的、刹那的性格が身体に染みてくるのはイタシカナイ。

いかに食を得るかが文化との係わり合いの生まれてくる基点だとすれば、その意味で、ヨッテイーの生活はまだ採取生活段階で、縄文時代にさえ、達していないといえる。 人は何によって生きるか、ヨッテイーにとってその答えははっきりしている。食料と水で生き、それにラム酒があればほかにいうことはない。必要外の嗜好から芽生えるはずの文化は、ラム酒が入り込むと、発展性が失われるものらしく、そのまま酔いだけが残り、誇大妄想癖に陥るだけで、マリーナのバーで駄洒落をとばす術に長けるのが関の山である。

 

 

第17回:シングルハンダー病

 
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