第59回: 悪役 その2
更新日2002/09/19
ディエゴがサメに襲われた。彼とはスペインのパルマ・デ・マジョルカで長期クルーズの準備をしていた時からの友達で、ひょっこりイビサの小さな湾で会い、またベネズエラで偶然会ったりした。丈夫一点張りのフィートの手造り鉄船で、オランダ人の奥さん、双子の娘の総勢4人で世界一周のセーリングの途中で、トンガに立ち寄り、そこでやられた。
ディエゴはベテランのダイバーだし、スピアフィッシング(銛撃ち)の腕はプロ級だ。サメの恐ろしさは充分知ってもいた。
彼自身はサメを見ていない。だが、下から突き上げるように尻から太ももに、一噛みガブリとやられたのだ。いくつかの偶然が作用し、184針縫い、尻を半分近く失いはしたが、ディエゴは助かった。
以後、アマチュアハム無線ネットで、「尻半分のディエゴ」がコールサインになった。
下から突き上げるようにガブリとくるのは「Great White」の特徴で、通常、一噛みしかしない習性がディエゴの命を救った。「国際サメ襲撃ファイル」(フロリダ・自然科学博物館内)によれば、1876年から、Great
Whiteによるアタックは254件あり、内67人が命を落としている。
しかしながら、実はこの手の統計はアメリカ国内の事件なら信用できるが、全世界的なスケールでは信頼性が薄い。50年、100年前に南洋、東南アジア、インド洋で現地人がサメに喰われても、そんな記録は残らないだろうし、ディエゴの件でもこのファイルに入っているかどうかは疑がわしい。実際の件数はこの数倍になると予想されるが、正確な数値は掴みようもない。
とはいえ、Great Whiteの生態は映画”ジョーズ”の時と比べても、格段にはっきりしてきた。この海中で敵なし、最強のサメは7メートル、1,800キロに成長し、アザラシ、オットセイ、亀が好物で、喰いだめがきき、数ヶ月も何も食べずに生きることができる。”ジョーズ”の時代には勢力範囲があると考えられていたが、1,000マイル、遠いところでは1,400マイルも泳ぎ渡ることが分かった。
サンフランシスコの沖、Farallon島にあるGreat White観測所では、サメが人間をアザラシと勘違いして噛み付くのではないかと言っている。というのは、人間に噛み付くGreat
Whiteは3,4メートルくらいの若い、経験の足りないサメが圧倒的だからだとしている。
そこで、どうしたらサメに殺られずに済むのか? アザラシに似た体型の人は、シェイプアップし身体を引き締めてから海に入るべきだ、とは言わない。しょせん効果的なサメ避けの対策はないからだ。
私が遠泳訓練を受けた時代、オレンジ色の”六尺フンドシ”がサメ避けに霊験あらたかな効果を発するとされていた。ところが、後の研究でブル・シャークは明るい黄色が大好きで、食欲を誘うことが分かってきた。どうにも、打つ手がないのが実状のようだ。
少なくとも、私には、海の中を泳ぎ回る楽しみに比べ、この程度のリスクは、犯しても引き合うものと思っている。
Great White、 学名Carsharodon Carcharias
Bull shark、学名 Carcharhinus leucas
第60回:
悪役 その3