■清香茶房(ちんしゃんさぼう)〜中国茶にまつわる話あれこれ

戸恒慎司
(とつね・しんじ)


東方文芸復興・恒記茶荘(アジアンルネッサンス・こうきちゃそう)店主。食のプロが集う東京・築地で中国茶の専門店を開く。中国茶にまつわるさまざまな疑問や質問に熱く答えます。



第6話:障害者の方をお招きして

更新日2002/03/26 


「障害者」の方をお招きしての茶会を月に一度催している。あえて「障害者」という表現をお許し頂こう。なにせ私も「障害者」。交通事故で右足が不自由になってしまった。

基本的に「障害者」はじれったさを感じている。私の場合では「走れない」「重たいものを持ちきれない」「和式のトイレが使えない」「階段を上手に昇降できない」……。意識的に「ないものねだりはやめようぜ」と思っていなければどうしても「すねて」しまい慢性的に「じれったさ」を抱えてしまう。

障害の程度にもよるが、本人のみでの行動が制限され、介添えが必要な方の場合は物理的に行動範囲も制限されてくる。
時代の進化とともにテレビやインターネットを利用して自宅や病室にいながら様々な情報を得ることが可能になっても、やはりそれは「バーチャルな世界」。限界は存在する(障害者の方が気軽に利用できる本屋さんて意外と少ないのですよね)。

お招きできるのは介添えによる外出が可能な20代から60代の方。私自身の経験を踏まえて何とか愉しんで頂けるように努力したい。

なるべく大きな動作でわかり易く中国茶の愉しみ方の一つである工夫茶をお見せする。茶壺(急須)からこぼれる香りに皆さんの期待も高まる。

一煎目は台湾を代表する「高山烏龍茶」。茶畑・生産工場・地理や歴史を簡単にご説明する。茶畑の写真をお見せすると、寂しそうな顔をされる方もいらっしゃった。その気持ちは私にも痛い程わかる。自由に行けない自分がちょっと悔しいんだよね。私が松葉杖で茶畑を歩いた時には転倒だらけ。体中に泥をつけたことを思い出した。

二煎目は「鉄観音」。焙煎を利かせて少し苦味かかった甘みが魅力のお茶だ。福建省南部を代表する鉄観音。少し意地悪にペットボトルの鉄観音と目隠しで飲み比べて頂く。

「こちらは水と臭いだけで味がしないように感じます」

舌に感じる「味」。人間って素晴らしい。「味」から様々な世界を連想できるのだから。

三煎目は「プーアル茶」。始めに一般的にスーパーでも購入可能なレベルのものをお出しする。皆の顔が歪む。

「ちょっと臭いですね」

「畳の裏のような味と臭いです」

次に飲みやすくなった20年物をお出しする。

「これ、同じプーアル茶ですか?」

「そうなんです。自然に発酵を任せ、年月が経つとこのように変化します」

「どんな場所で保管するのですか?」

「中国ではどんな人が飲むのですか?」

多くの質問の中でいきあたった一つの問題、それは「トイレ!」利尿作用もあるお茶を飲む場で、予算の都合からバリアフリーにできなかったトイレを恥じた。障害者の方にストレスを感じさせてはちょっと失格。

それから1時間近くの間、様々な話題が飛び交った。生活のこと。食事のこと。趣味のこと。恋愛のこと。「茶」がお越し頂いた方の心の扉を少し開いてくれた様な気がした。私を思い出せば、入院中、病室で家内が淹れてくれたコーヒーが、塞ぎがちだった気持ちをこじあけてくれたことが蘇る。

「障害者」。「身体障害者」ではあっても「心体障害者」になっちゃいけないね。やっぱり陳腐な言い回しかもしれないけれど「支えあい」。心も体にも不自由があったら一人で抱え込まないようにしたい。「茶」が人と人の潤滑油の役目を果たしてくれるのなら……。

 

→ 最終回: マニアとおたく 相対的価値観と創造

 
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