木の葉の小太郎
木の葉の小太郎は、こうえんの、たかい木の木の葉です。たかい木には、ほかにも木の葉がたくさんついています。みんな小太郎の兄弟です。ですから小太郎には兄弟がたくさんいます。かぞえきれないくらいたくさんいます。みんなよく似ていて同じような大きさです。けれどもよく見ると色も形も大きさもみんな少しずつ違います。
小太郎のたべものは、太陽の光と水とタンサンガスです。タンサンガスは、私たちが吸う空気のなかに、サンソやチッソといっしょにあります。空気にはこまかいホコリとかもまじっていますけれども、空気のほとんどはタンサンガスとサンソとチッソでできています。
小太郎はタンサンガスを風からもらいます。風は空気の流れです。水は小太郎のお父さんの木の根っこが、土のなかからいっしょうけんめい吸いあげてくれます。お父さんは吸いあげた水を、お母さんの木の幹にわたします、その水をお母さんは枝をとおして小太郎たちに手わたしれます。光は太陽がプレゼントしてくれます。
ですから小太郎は虫やモグラや鳥たちのように、動きまわってたべものをさがさなくても、お母さんの枝にしがみついているだけで、水と光とタンサンガスのごちそうをいくらでもたべることができます。そうして元気になります。
じぶんが元気になるだけではありません。動きまわらない小太郎は、水と光とタンサンガスをたべればたべるほど元気になって元気があまってしまいます。お天気がいい日には光もたくさんもらえますから、ますます元気があまってしまいます。
それで小太郎たちは元気を、お母さんやお父さんにあげます。小太郎たちが元気をあげると、木の根っこのおとうさんも、幹や枝のおかあさんも元気になります。そうして、ありがとうね葉っぱの兄弟たち、もっともっと元気になろうね、と言ってくれます。そうすると小太郎たちもうれしくなって、もっとどんどんごはんをたべます。
木の葉の小太郎がタンサンガスと水と光のごはんをモグモグたべると、小太郎の体からサンソが出てきます。小太郎は出てきたサンソを吹いてくる風に手わたします。ですから小太郎たちが元気になればなるほど、風の中にサンソがとけて、空気のなかのサンソがふえます。だったら小太郎たちがごはんをたべればたべるほど、空気のなかからタンサンガスがへってサンソがふえると思うでしょう。サンソばかりになってしまうと思いますか?
でもしんぱいありません。どうしてかというと、ふえたサンソを、虫や鳥や魚やウシやライオンやニンゲンが吸うからです。そういう虫や動物たちは、サンソがないと動くことができません。生きていくことができません。走ったりするとハアハア息をしますね。それは動けば動くほど、体からサンソがへって苦しくなるからです。ニンゲンもイヌもネコもキンギョもみんなそうです。
虫や魚や動物たちは、息をするとき、サンソをすってタンサンガスをだします。ニンゲンもそうです。地球にはたくさんの虫や魚や動物たちがいますから、サンソがたくさんいります。サンソがなくなってタンサンガスばかりになると、動物もニンゲンも生きていけません。
そこで小太郎と仲間たちのとうじょうです。地球にはたくさんの草や木があって、それはみんな小太郎たちの仲間です。動物たちがサンソをすってタンサンガスを出し、小太郎のなかまたちの草や木が、せっせとタンサンガスと水と光をたべて空気のなかにサンソを出します。ですからみんなでなかよく生きていけるのです。
そんなふうに小太郎たちが太陽の光をあびて、きもちよく風にふかれて元気になればなるほど、どうぶつたちも元気で動きまわれます。地球は、とてもよくできていますね。
きもちがいい風が吹いてくると、小太郎はたくさんの兄弟の葉たちといっしょに歌を歌います。サワサワサワサワ、カサコソカサコソ。ニンゲンには小太郎たちの言葉がわかりません。けれどもよく聞くと、なんだかこんなふうに歌っているように聞こえてきます。
かーぜがふいたらうれしいな。
みんなでからだをよせあって。
みんなでおうたをうたえるよ。
ほらほらほらほらふいてきた。
やさしいかーぜがふいてきた。
こうして、光がいっぱいできもちのいい風が吹く日には、小太郎たちは体をヒラヒラさせながら、光をキラキラあびながら、みんなで歌を歌います。歌声が風にのって、遠くのほうまで流れていきます。サンソもいっしょに流れていきます。サンソがいっぱいの風のなかを、チョウチョがきもちよさそうにフワリフワリと踊ります。チョウチョもサンソが大好きです。
ところがある日、午後になって、きゅうに風が強くなりはじめました、風はいつでもやさしく吹くわけではありません。その日は風は小太郎たちがきもちよく歌ってはいられないほど強くふきました。しかもどんどん強くなりました。
こわくなった小太郎は、お母さん枝の手をしっかりもってお母さんからはなれないようにがんばりました。兄弟たちもおなじように、お母さんにしがみつきました。もしも手をはなしたら、こんな強い風では遠いところまで飛ばされてしまいます。ですから小太郎と兄弟たちは、みんなで大きな声を出しあって、みんなで体をよせあって、いっしょうけんめいがんばりました。
それでも風はビュウビュウビョウビョウふきました。小太郎はだんだん手がしびれてきました。それでも小太郎たちは、みんなで声をかけあいました。大きな声でさけびあいました。手をはなすんじゃないぞ、みんなで体をよせあって力をあわせて風とたたかうんだ。あきらめるんじゃないぞ。こんな風なんかにまけるものか。
小太郎たちは力をあわせてがんばりました。がんばる小太郎たちをお母さん枝がしっかりもって、強い風でゆらぐ幹を、お父さんが地面の下の土や岩をにぎりしめ、みんなが倒れないようにがんばりました。それでも風はビュウビュウビョウビョウ吹きつづけました。
そうして二時間くらいがすぎたとき、ふっと風が弱まりました。そうしてきゅうに、あたりが静かになりました。強い風がとおりすぎてどこかに行ったのです。
小太郎たちはホッとして、きゅうに力がぬけました。みんなぐったりとつかれて、体を地面のほうにむけて、お母さん枝からぶらさがってしまいました。そのとき、地面のなかから声がしました。お父さんの声でした。よくがんばったね、みんないい子だ。
そのとき雲のきれまから、太陽の光がサササアーッっと降ってきました。小太郎たちの体にも、きゅうに元気がもどってきました。がんばってつかれてしまっていたので、小太郎たちはみんなでモグモグ、光とタンサンガスと水を食べました。そうしてすっかり元気になった小太郎たちは、みんなで体をよせあって歌を歌いました。
つーよいかぜにはまけないぞ。
みんなでからだをよせあって。
みんなでちからをあわせよう。
そしたらほらほらふいてきた。
やさしいかーぜがふいてきた。
やさしいかーぜがふいてきた。
-…つづく
第2回: チョウチョのフワリ