■挨拶は「もうごはん食べた?」 〜バンコク街角通信

増成 ヒトミ
(ますなり・ひとみ)


1968年生まれ。埼玉育ち。大学卒業後勤め人を経て、97年からタイのバンコク在住。几帳面を絵に書いたような性格が、タイに来てから後天性マイペンライ症候群に。「ヒトミのバンコクな毎日」もどうぞ。


第1回:挨拶は「もうごはん食べた?」
第2回:果物で知る季節
第3回:懐かしきふるさとの味
―ソムタム―

第4回:インスタント麺のサラダ
―ヤム・マーマー―

第5回:タイ風洋食?
―パット・マカロニー―

第6回:ほかほかご飯に卵焼き
―カイ・ヂヨウ―

第7回:タイといえばやっぱり?
―トムヤムクン―

第8回:記憶の中の混ぜご飯
―カーオ・クルック・カピ―

第9回:ピンクのスープの海鮮麺
―クエッティアオ・イェンターフォー ―

第10回:蟹を食べるときゃ
―プー・パッ・ポン・カリー―

第11回:川魚をおいしく
―プラチョン・ヤーン・グルア―

第12回:家族団欒のひととき
―ムー・ガタ―

第13回:黒くてつるん
―チャオクワイ―




■連載完了コラム
■My Bangkok Life
〜暮らしてわかったマイペンライの国
 
[全29回]


■更新予定日:隔週木曜日

第14回:南国で囲む鍋料理―タイスキ―

更新日2004/01/08


タイには“タイスキ”という鍋ものがある。この“スキ”というのは、日本のすき焼きが語源だそうだ。坂本九の「上を向いて歩こう」の英題が「スキヤキ」で、その曲をラジオで聴いて命名のヒントを得たのだとか。

ところが実際のタイスキは、澄んだスープの中に肉類、魚介類、野菜を入れてタレをつけて食べる、どちらかと言うと寄せ鍋に近い食べものになっている。しゃぶしゃぶに似ているという人もいるが、肉や魚が混在する点では寄せ鍋に似ているとわたしは思う。


スキー(タイスキ)

タイは常夏の国だというのにも関わらず、鍋ものタイスキはタイ国民の食生活に深く浸透している。ちょっとした人数で外食をするなら、タイスキは一番お手頃な選択だからだ。値段もそれほど高くないし、なにより一つの鍋を皆でつつき合ってわいわい食べるのは楽しい。

タイスキを売り物にしている店はいろいろあるけれど、鍋に入れる具に大きな差があるわけではない。店の個性はむしろタレに出ている、と思う。紅麹をベースにした濃い目のピンク色のタレが正統派なのだが、大手チェーン店ではオレンジ色をしたチリソースがベースになっていることが多い。

これに、刻んだ生にんにく、唐辛子、ライムの絞り汁をお好みで加えると、通っぽい食べ方になる。クェイティアオ(タイそば)でも、カオパット(タイ炒飯)でも、テーブルの上で自分好みの味付けをしてしまうタイ人らしい食べ方だ。

食べ方は、お好みの具を好きなだけ注文して、寄せ鍋の手順でどんどん鍋に放り込むだけ。煮過ぎると固くなりそうな具や、春雨などは食べる直前に入れるのがベター。メニューには生卵も載っているけれど、これはすき焼きのように具につけて食べるのではなく、すでに鍋に入れた具をとじるように流し込む。具に溶き卵がほどよくからみついて、まろやかな味にしてくれる。

チェーン店ではないのだけれど、元祖タイスキが食べられる店があるというので、友人に連れて行ってもらったことがある。バンコクのペッブリー通りにある『ルアンペット』がそれだ。

スープやタレの感じは他の店と変わらないが、肉を頼んだら、どの皿も褐色のペーストと生卵が乗っていた。このペーストと卵を肉によくからめてから鍋に入れるのだそうだ。ペーストは、各種スパイスとにんにく、玉ねぎを混ぜたもので、どこかカレーに似た風味がしていた。

煮えた肉を口に運んでみると、ペーストの味がしっかりついていてタレの出番がない。かなりスパイシーである。肉を何皿も入れていくと、それにからみついた卵がどんどん煮つまって、どろりと重たいスープになる。ここに春雨を入れて食べると、春雨がペーストと卵を吸い取って濃厚な味になる。すき焼きの後のうどんみたいにだ。

実はタイにも鍋奉行はいる。場を仕切って、とにかくあれこれと口うるさい。やれ、豚肉は先に入れろだの、やれ、空心菜はあとにしろだの……。あれこれルールなんか考えず、好きなものを好きなだけ、自分の好きなスタイルで食べられるのがタイスキなのだ。自分は鍋奉行だと自覚のある方、タイスキのときはくれぐれも場を仕切り過ぎないように。

 

 

第15回:バンコクで日本の味 ―焼きそばに餃子―


 
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