第14回:南国で囲む鍋料理―タイスキ―
更新日2004/01/08
タイには“タイスキ”という鍋ものがある。この“スキ”というのは、日本のすき焼きが語源だそうだ。坂本九の「上を向いて歩こう」の英題が「スキヤキ」で、その曲をラジオで聴いて命名のヒントを得たのだとか。
ところが実際のタイスキは、澄んだスープの中に肉類、魚介類、野菜を入れてタレをつけて食べる、どちらかと言うと寄せ鍋に近い食べものになっている。しゃぶしゃぶに似ているという人もいるが、肉や魚が混在する点では寄せ鍋に似ているとわたしは思う。

スキー(タイスキ)
タイは常夏の国だというのにも関わらず、鍋ものタイスキはタイ国民の食生活に深く浸透している。ちょっとした人数で外食をするなら、タイスキは一番お手頃な選択だからだ。値段もそれほど高くないし、なにより一つの鍋を皆でつつき合ってわいわい食べるのは楽しい。
タイスキを売り物にしている店はいろいろあるけれど、鍋に入れる具に大きな差があるわけではない。店の個性はむしろタレに出ている、と思う。紅麹をベースにした濃い目のピンク色のタレが正統派なのだが、大手チェーン店ではオレンジ色をしたチリソースがベースになっていることが多い。
これに、刻んだ生にんにく、唐辛子、ライムの絞り汁をお好みで加えると、通っぽい食べ方になる。クェイティアオ(タイそば)でも、カオパット(タイ炒飯)でも、テーブルの上で自分好みの味付けをしてしまうタイ人らしい食べ方だ。
食べ方は、お好みの具を好きなだけ注文して、寄せ鍋の手順でどんどん鍋に放り込むだけ。煮過ぎると固くなりそうな具や、春雨などは食べる直前に入れるのがベター。メニューには生卵も載っているけれど、これはすき焼きのように具につけて食べるのではなく、すでに鍋に入れた具をとじるように流し込む。具に溶き卵がほどよくからみついて、まろやかな味にしてくれる。
チェーン店ではないのだけれど、元祖タイスキが食べられる店があるというので、友人に連れて行ってもらったことがある。バンコクのペッブリー通りにある『ルアンペット』がそれだ。
スープやタレの感じは他の店と変わらないが、肉を頼んだら、どの皿も褐色のペーストと生卵が乗っていた。このペーストと卵を肉によくからめてから鍋に入れるのだそうだ。ペーストは、各種スパイスとにんにく、玉ねぎを混ぜたもので、どこかカレーに似た風味がしていた。
煮えた肉を口に運んでみると、ペーストの味がしっかりついていてタレの出番がない。かなりスパイシーである。肉を何皿も入れていくと、それにからみついた卵がどんどん煮つまって、どろりと重たいスープになる。ここに春雨を入れて食べると、春雨がペーストと卵を吸い取って濃厚な味になる。すき焼きの後のうどんみたいにだ。
実はタイにも鍋奉行はいる。場を仕切って、とにかくあれこれと口うるさい。やれ、豚肉は先に入れろだの、やれ、空心菜はあとにしろだの……。あれこれルールなんか考えず、好きなものを好きなだけ、自分の好きなスタイルで食べられるのがタイスキなのだ。自分は鍋奉行だと自覚のある方、タイスキのときはくれぐれも場を仕切り過ぎないように。
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―焼きそばに餃子―
