
パット・マカロニー・ガイ(鶏肉入りの炒めマカロニ)
この頃よく食べている定番ランチメニューがこれ、パット・マカロニー。タイ語をそのまま訳せば、“炒めマカロニ”となんともあか抜けないが、味の方はシンプルでいて、しかもカーオ・ゲーン(お惣菜ぶっかけごはん)に飽きた胃袋にとてもやさしい。なにしろこの料理は辛くないのだ。
マカロニは、砂漠を旅するアラビア商人たちが作り出した保存食という説がある。それもはるか昔の12世紀頃の話。それに対して、日本でスパゲティやマカロニといったパスタが普及したのは、昭和30年以降の話だそうだ。
タイにこのマカロニが入ってきたのはいつなのかは定かではないが、このパット・マカロニー、初めはパタヤなどに駐留していた外国人兵向けに作られていた、タイ風洋食ではないかと勝手に推測している。
肉を炒め、茹でマカロニと卵を割り入れ、玉葱とトマトを入れ、ケチャップとオイスターソースで味をつける。見ようによっては、日本のスパゲティ・ナポリタンっぽいといえなくもない。
タイに住み始めた頃のわたしは、どんなに辛いタイ料理でも躊躇しないで頑張って平らげたいと思っていた。それは、「外国人は辛い料理を食べられない」と思っているタイの友人たちへの挑戦でもあったし、タイが好きなのにタイ料理を受け付けられない日本の友人たちへの見栄でもあった。
実際、わたしはもともと辛い料理が好きなので大変な思いをしたことはないのだが、それでも周りの人に、「よくそんなに辛いのが食べられるね」と言われれば、密かに得意な気分になっていた。今思えば、料理を選ぶときもわざわざ辛い料理を選んで食べていたような気がする。
ちょうどそんな頃だ。タイ語学校の授業が終わり、近くの食堂でクラスメイトと昼食をとろうとしたときのこと。クラスメイトの一人は、注文を取りに来たおばちゃんに、「パット・マカロニー・ガイ(鶏肉入りの炒めマカロニ)」と告げた。わたしは料理が運ばれてくるまでそれがなんだかわからなかった。
それがケチャップ色をしたマカロニだとわかったときに、「ふうん、辛くない料理なんか頼んじゃってさ」と鼻白んでいた。その彼は数年前に日本に帰国してしまったが、辛い料理には最後までなじめなかったのをよく覚えている。
今のわたしにはその頃のような不必要な気張りも変な勘違いもなく、毎日自分の食べたいものを好きなように食べられる。辛い料理=タイ料理と思っていたわたしは、長い間このパット・マカロニーを口にすることがなかったのだから、考えてみればもったいない話だ。
だが、実は遠い過去にわたしはこのパット・マカロニーに出会っていたのだ。それはまだ幼稚園の頃、父が十二指腸潰瘍で入院することになり、わたしと弟は京都の祖母の家に預けられた。幼い子供の口に合う食べ物を作ろうと気遣ったのだろう、祖母は、「晩ご飯は何が食べたい?」と聞いてきた。わたしはすかさず、「スパゲティ!」と答えた。
しかし、その夜の食卓にのぼったのはこのパット・マカロニーだった。大正生まれの祖母には、スパゲティとマカロニの区別がつかなかったのだろう。わたしは心の中で、「ママの作るスパゲティはこんなんじゃない……」とつぶやいていたが、それを直接祖母に抗議するほど鈍感な子供ではなかった。
パット・マカロニーを食べるたびに、なんだか懐かしく物哀しい感じがしてしまうのは、このときの記憶のせいなのかもしれない。
第6回:ほかほかご飯に卵焼き―カイ・ヂヨウ―
