■挨拶は「もうごはん食べた?」 〜バンコク街角通信

増成 ヒトミ
(ますなり・ひとみ)


1968年生まれ。埼玉育ち。大学卒業後勤め人を経て、97年からタイのバンコク在住。几帳面を絵に書いたような性格が、タイに来てから後天性マイペンライ症候群に。「ヒトミのバンコクな毎日」もどうぞ。


第1回:挨拶は「もうごはん食べた?」
第2回:果物で知る季節
第3回:懐かしきふるさとの味
―ソムタム―

第4回:インスタント麺のサラダ
―ヤム・マーマー―

第5回:タイ風洋食?
―パット・マカロニー―

第6回:ほかほかご飯に卵焼き
―カイ・ヂヨウ―

第7回:タイといえばやっぱり?
―トムヤムクン―

第8回:記憶の中の混ぜご飯
―カーオ・クルック・カピ―

第9回:ピンクのスープの海鮮麺
―クエッティアオ・イェンターフォー ―

第10回:蟹を食べるときゃ
―プー・パッ・ポン・カリー―




■連載完了コラム
■My Bangkok Life
〜暮らしてわかったマイペンライの国
 
[全29回]


■更新予定日:隔週木曜日

第11回:川魚をおいしく ―プラチョン・ヤーン・グルア―

更新日2003/11/20


去年の夏に実家に帰ったときのことだ。母親が、「ご飯はどうしているの、いつもタイ料理?」と聞いてきた。

「そう」と答えるわたしに、「タイ料理では今一番何が好きなの」と更に聞く。しばらく考えた末に、「雷魚の塩焼きかな」というと、「ええっ、雷魚なんか食べているの」と驚かれてしまった。父親はそれを聞きつけて、「雷魚には寄生虫がいるんだぞ」としたり顔で言う始末だ。

魚は特別好きというわけではないのだが、体のことも考えて肉を食べるのを控えているので、自然に魚を食べる機会が多くなる。かといって、タイでわたしの好きな寿司や刺身が常食できるわけもなく、ナムプリック(唐辛子味噌)とセットで出てくる鯵の揚げたのや、タイカレーの具になった雷魚や鯰を食べるのが関の山だ。

わたしのアパートから歩いて十分程度のところに、夕方になると店を出すイサーン(東北地方)料理の屋台がある。4人掛けのテーブルは全部で10個あるかないかなので、出足が遅いとあっという間に満席になってしまう。

特に変わったメニューがあるわけではなく、どれも平均的においしいのだが、この店でわたしが一番好きなのはプラチョン・ヤーン・グルア(雷魚の塩焼き)である。雷魚の口から腹に向けてレモングラスを丸のまま突っ込み、塩をまぶして炭火で焼いただけの、料理と呼べるのかわからないような素朴なものだ。


プラチョン・ヤーン・グルア(雷魚の塩焼き)

炭火でじっくり火を通される間にレモングラスの芳香が魚の身に染みて、川魚特有の泥臭さも生臭さもなくなっていてとても食べやすい。塩は焼く直前にまぶすので身に塩味がついているはずもなく、別に唐辛子、にんにく、ライムの絞り汁、ナンプラーなどで作ったタレをつけながら食べる。白身の淡白な味は刺激的なタレとよく合い、一人で一匹たいらげてしまえそうな気になってしまう。この店に来る客はこの雷魚の塩焼きが目当てなのか、どこのテーブルにもこの雷魚がどんと載っている。

一度別の店でこの雷魚の塩焼きを頼んだら、冷えている上に身が塩辛いという代物を出されたことがある。身の色も褐色がかっていて、いつもの雷魚とは勝手が違う。結局数分の一しか食べずにお勘定をしたのだが、後味悪い気分にさせられた。前日の売れ残りを出されたのか、それとも雷魚の鮮度が悪かったのか。余計なことを考えるのがイヤなので、それをきっかけにその店には行かなくなってしまった。

そこへ行くと、いつもの店は雷魚の新鮮さからして違う。バケツに入っている雷魚は、レモングラスを口に突っ込まれながらまだ生きている。手早く塩をまぶして炭火の上の網に乗せると、熱さに驚いてせわしなくエラやヒレを動かしながら悶絶死していく。ときどき網から転げ落ちんばかりに飛び跳ねているのもいる。焼く側はそれをぐぐっと網に押し付け、魚がおとなしくするまで待っている。

それを見ていたタイの友人は、「かわいそうだね」と一言つぶやいた。世の中には知らなくていいことがたくさんあって、この調理の舞台裏もその一つに入るのかもしれないと思いながらも、また雷魚の塩焼きを食べたさにあの店に足が向いてしまう。

 

 

第12回:家族団欒のひととき ―ムー・ガタ―


 
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