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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第550回:海外フェイク?情報の怪

更新日2018/02/22




大昔、“アメション”という言葉が使われていたことがあった…と、ウチの仙人が言っています。なんでも、アメリカを訪れ、そこでオシッコをしただけで、「今、アメリカでは…云々…」とやる人たちのことを“アメション”と呼んでいたようです。汚い言葉ですね…。

今では、海外に長く住み現地に溶け込んだ日本人も多くいますし、日本に住み、日本語のレベルが高いだけでなく、優れた見識を持つ外国人が増えました。彼ら、彼女らの意見は、なるほどと思わせるものがあります。

それにしても、未だになんと多くの海外レポート、見聞録が書かれ、そして未だにそれらのレポート、記事が間違った現状把握のまま書かれていることには呆れるほどです。

たとえばと、槍玉に挙げてしまいますが、日本にこの雑誌ありという『文芸春秋』の巻頭エッセーにある明治大学教授、鹿島茂さんの『集合性』というコラムです。

その中に、「アメリカでは大学の授業料が年間400万円以上で、教員は全員専任、非常勤は原則的に存在しない。大学は金持ちのものなのだから、このシステムでいいのである」とありますが、これなど、とんでもない間違いです。いったいどこからこのような“アメリカの情報”を得たのでしょうか、アメリカの大学で教鞭を執ったことがあるとは思えません。日本にいても簡単にインターネットでアメリカの全部の大学の授業料のリストを閲覧できるのに、なぜそんな労を惜しんだのか、判断に苦しみます。

私の勤めているコロラド州立大学(Colorado Mesa University)の年間授業料はコロラド州の住民の子女には文科系で6,763ドル、州外からの学生には13,069ドルです。日本になじみのあるUCLAではカリフォルニア州の住民には12,763ドル、州外からの学生には37,471ドルで確かに鹿島先生のいう400万円相当になります。しかし、年間授業料が100万円相当以下の大学はたくさんあります。その上、親の年収により、授業料免除を設けている大学がほとんどですから、貧乏人の子供もタダで大学に行けるのです。

私はミズーリー州で育ち、そこの住民(両親がミズーリー州に税金を払っていた)ですからミズーリー州立大学に行けば、州の安い住人授業料で大学に行くことができ、弟、妹たちは州立大学に進み、親からの仕送りなど全くなしで、アルバイトで学費、生活費を賄いました。アメリカの大学は決して「お金持ちのためのもの…」ではありません。

加えて、「教員は全員専任、非常勤は原則的に存在しない…」 というコメントも全くデタラメ、事実誤認もはなはだしく、私が渡り歩いた大学は7ヵ所になりますが(学位を取得するために4大学、教職に就いて3大学)、そこでは非常勤の先生がいなければ、一般教養、外国語の初年の授業は成り立たないほど非常勤の先生に頼っています。スペイン語専攻の大学院生がTA(ティーチング・アシスタント;時間講師)として、初歩スペイン語を大学1年生に教えるのは当たり前のことになっています。確かに、その程度のスペイン語なら大学院生で十分なのです。

鹿島先生の本来の研究を全く知らずに、『文芸春秋』の記事だけで判断するのは、少し気が引けるのですが、あまりに酷い間違いなので、つい筆を執ってしまいました。実際の鹿島先生は人を信じやすい愛すべき研究肌の教授なのかもしれませんが…。

このような間違い…、間違いとまで言わないけど、目の不自由な人が象の鼻を触り、象はクネクネした大きな蛇のような生き物だと判断する事例がとても多いのに呆れてしまいます。

3、4年駐在する特派員や商社、銀行、大学教授の多くの見聞は、“目の不自由な人の象の鼻”に近く、その分野だけに限れば優れた業績を上げている人でも、彼らが住んだ国、アメリカ、ヨーロッパだけでなく、アジアの国の90パーセント近くを占める普通の人、工場労働者、農民、炭鉱、貧民窟に住む人のことを知ろうともせずに、アメリカでは…、イギリスでは…、フランスでは…と、やりたがる傾向があります。 

たとえ10年間その国に住んでいても、自分の生活圏からほとんど踏み出していないのです。またその生活圏が日本で彼らが過ごしてきた生活レベルより相当上のクラスになり、給与、住居も格段に上なら、パーティーで会う現地の人たちも上層部で、庶民?と触れ合うのはお手伝いさん、庭師だけになっています。

現在、ニューヨークに住んでいる日本人は79,510人(2006年調べ。在留届を出している日本人。実際にはその2、3倍の20万人近くいると言われています)ですが、大半の人はナイアガラ、グランドキャニオンを訪れても、すぐ隣のハーレムに行ったことのある人は例外でしょう。アメリカを知るには別にハーレムに行けと言っているのではありません。自分の見聞が非常に限られたものであることを認識して貰いたいだけです。

まず、アメリカでは…イギリスでは…、フランスでは…と文頭にあったら要注意です。それらの地方性豊かな国々では、一つの物指しで国全体を計ることなどできないからです。アメリカでは、フランスでは、とやる傾向は大学の先生に特に多く見受けられるようです。彼らはモノを書くことに慣れ切っているうえ、余暇として軽いエッセーを書き、発表する場もあるのでそのようなエッセーが目に付くだけかもしれませんが…。第一、忙しい商社マンや銀行員はそんなムダなことに時間を費やさないのでしょう。

私にしても、テレビも映らない、新聞配達も来ない山奥に住んでいますし、週に3回谷間の町の大学に降りるだけの、極狭いアメリカの一部で生活していますから、とても伝統的な東部のエリート大学や、先鋭的な西部の大学のことなどほとんど知りません。かろうじて渡り歩いた中西部の大学と大学町、10年近く教えたプエルトリコの大学と周辺しか知りません。

これから、私もアメリカを代表しているような物言いは決してしないように、と自戒しています。第一、私はアメリカ政府からそんな宣伝費を一銭も貰っていないのですから…。

-…つづく

  

 

第551回:山の異変と狼回復運動

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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