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■亜米利加よもやま通信 〜コロラドロッキーの山裾の町から

第502回:アメリカの階層社会

更新日2017/03/02



大昔のことになりますが、地中海の島で暮らしていた時、そこに別荘を持ち、毎年その島でバカンスを過ごすイギリス人カップルと親しくなりました。彼らは島の中央部の山裾にプールとテニスコート付きの瀟洒な家を持っており、私たちも何度か彼らの家を訪れました。また、ロンドンの彼らの家も訪れたりする仲になりました。

彼らが飛行機で、夏の期間だけ運行しているチャーターフライトで飛んできた時、飛行場まで迎えに行ったことがあります。ありきたりの挨拶が終わったあとで、その飛行機に同乗していた彼らの国の人、イギリス人のことですが、その痛烈な悪口にあきれたことがあります。

曰く、「飛行機が飛ぶ前に、すでに酔っ払っている、大騒ぎを始める、下品な話し方をする、豚のように飲み、食べる、そのマナーも豚並だ…云々」と、それはそれは厳しいものでした。確かに、その島にやって来るバカンス客ははっきりと二通りに分かれていて、激安のパッケージで、おそらく本国にいるより安上がりだから、それに何といっても、当時、酒類が異常に安いスペインで飲み放題飲めるのが魅力でやってくる労働者たちと、その島に古くから別荘を持ち、島の温暖な気候と静かさを求めて、年に何度も来る別荘族タイプの人たちとに分かれます。

言ってみれば、はっきりと格差があるのです。その違いは、これが同じ国の人間なのか?とあきれるほどです。そして、別荘を持っているいわば上流階級の人は、飲んで騒ぐだけの労働者の階級の人たちを平然と見下しています。

ウチのダンナさんはやんわりと、「彼らは1年の11ヵ月、この休暇のために働いて来ているのだから、多少飲んで、バカ騒ぎをしてもいいんじゃないかな…」とノンキなことを言っていますが、同国人たる"上層"の人々は"下層"を非難し、軽蔑するのになんのためらいもありません。

元々、隔絶した階級社会のイギリスのことです。一昔前まで、貴族には青い血が流れているとホンキで信じていた人たちのことです。

初期、アメリカにイギリスから渡ってきた移民団は、極少数の貴族たちを除けば、大多数が自国で食うや食わずの貧しい人たちでした。もちろん、ある程度の資金を懐に一攫千金を夢見てやってきた人たちもいるにはいました。息の詰まるような階級社会を逃れ、自由と可能性に賭けてアメリカに渡ってきたのでしょう。

そんな初期の移民たちが作った、階級のない自由な国であるべきアメリカ、トマス・ジェファーソンが、"貧しき労働者が億万長者と同じ権利を持つ国、急進的であり過去に前例を見ないほどの平等、自由"と謳ったアメリカですが、現在に到るまで歴然とした差別、階級が存在します(ちなみに、トマス・ジェファーソンは200人以上の奴隷を所有し、彼らを最期まで解放しませんでした…)。

たとえば、私たちが住んでいる高原台地の牧場ですが、回りに大学に行ったことのある人はまずいないでしょう。とても親しくしており、家に入る私道を共有してしているベヴとマービン夫婦、マービンはトラック運転手、ベヴは掃除婦を生涯続けています。二人の娘さんも自宅学習(ホームスクーリング)で学校に一度も通ったことがなく、日本でいう中学校レベルの教育すら終わらないうちに妊娠し、結婚し、派出掃除婦として働いています。

南隣のケンはフォードの工場で定年まで働き、引退してここに越して来ましたが、やはり大学に行っていません。奥さんのヴィッキーは専業主婦を生涯続けています。そして息子さんも父親と同じデトロイトのフォードの工場で働いています。

東隣のハイセル一家はプアーホワイトを絵に描いたような一家で、敷地内にトレーラー数台、オンボロキャンピングカー数台、トラックや車がまるでジャンクヤードのように散らばっています。

向かいの、サムとダイアン若夫婦は自分の牧場を小さいながら持ってはいますが、とてもそれだけでは食べていけないのでしょう、大牧場で牧童として働いており、彼らの子供たちもお父さんと同じ道を歩むことになるでしょう。

この周囲に住んでいる人たちには、子供たちに高等教育を受けさせようという意図がまるでなく、そのように何世代も続いてきているのです。日本の教育ママの精神を爪の垢を煎じて飲んでもらいたいほどです。

大学や専門学校の高等教育がすべてだ、必ず必要だというのではありません。彼らはこの高原台地で暮らすために十分な知識と経験を親から受け継いで育っていくのでしょう。私たちも、彼らから、ここの自然や野生、とりわけモグラや野鼠対策を大いに教えてもらいました。 それにしても、ここで育つ子供たちがもっと上の教育を受ける可能性を親たちがミスミス潰しているように見えるのです。

この牧場の社会の外にもっと別の世界、たくさんの可能性が広がっている、それを知り、その世界で生きていくには、やはりある程度の教育を受けなければ、何時まで経っても親と同じプアーホワイトとして生涯を送ることになります。

私も教育者のハシクレですから、周りに住んでいる人たちの子供が、中には優秀な子もいるのですが、上の学校に行かないのを見るのはとても苦痛なのです。

私が教えている大学は有名な研究、リサーチ大学とは対極をなす底辺を拾い上げ、広げるようなところですから、大学一世、家族で初めて大学に行くことができた学生がたくさんいます。およそ20-30パーセントの新入生の親は大学などに行ったことがなく、彼らがバリアを打ち破って、家族で初めて大学まで来た学生さんです。

残念ながら、大学一世の世代はドロップアウトする傾向が強いのですが。でも、何年か後に子供ができた後に、もう一度大学に戻ってくる人が多くなってきました。赤ちゃんを連れて授業にくる生徒さんもいます。私は赤ちゃんが泣いたり、わめいたりしない限り、子供を連れて授業に来ることを許しています。

お母さん、お父さんが子育てをしながらも、学校に通っていたことを赤ちゃんがどのくらい覚えているか大いに疑問ですが、その赤ちゃんが大きくなり、大学二世の世代が生まれることを密かに期待しているのです。

彼らがアメリカの階級を打ち破り、親を踏み台にして次の世代を築くことを願っています。

 

 

第503回:遥かなる男女平等社会

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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