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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第457回:デジタルカメラ時代の写真

更新日2016/03/24



茶色に変色した古い写真には、どこか味わいがあります。私のダンナさんのお爺さんが海軍の制服を颯爽と着て、写真屋さんで撮ったものとか、私が逢ったことのないダンナさんの父親が、お母さん、それに上の二人のお姉さんと四人で撮った写真など、とても貴重なものです。

写真は写真屋さんが撮るもの、予約しておいて全員正装して写真屋さんに出向き、撮ってもらうものでした。お姑さんはもうすぐ100歳になりますが、彼女の花嫁姿の写真が札幌の狸小路の写真館のショーウインドーに飾られていた…と、自慢げに話していました。

カメラが出回るようになってから、誰でもスナップ写真を撮れるようになったのは、そう昔のことではありません。ウチの親戚一同の写真係はクレアおじさんで、何台かのニコンと暗室も持っていて、自分で現像、焼付けもやっていました。

結婚式やお葬式、家族の集まりのたびに、クレアおじさんは活躍したものです。凝り性のクレアおじさんは、現像したフィルム、写真のすべてに、撮影した日付、対象を記入し、ファイルキャビネットに膨大な写真を整理して仕舞っていました。どこの家族にも一人か二人、写真係になる人がいるのでしょうね。

フィルム写真はプロでもない限り、そう何十枚、何百枚と撮り、現像、プリントできるものではありません。36枚撮りフィルム(どうして24枚とか36枚撮りという数字になったのかしら)を写真屋さんに出すのは結構費用がかかりるので、写真を撮るときに一枚、一枚丁寧に素人なりに構図、背景などを考えてシャッターを押したものです。

最近、義理の弟が亡くなりました。彼もまた写真にとても凝っていました。彼が撮った膨大な写真を整理するのは、ほとんどミッション・インポッシブルです。というのは、彼の写真はすべて高解像度のデジタルカメラで撮ったもので、しかも、アメリカにある日本庭園を網羅する写真集を出版しようとしていましたから、恐らく何万、ひょっとすると100万枚になろうかという写真がSDカードとメモリースティックに残されているのです。

デジタルカメラの時代になり、いまだにフィルムを使っているのはハリウッド映画を撮るときだけという状況になってしまいました。それももうすぐ、フィルムが必要のないデジタル撮影になると言われています。これでは、フィルム会社は軒並み潰れてしまうのではないかと余計な心配をしたくもなります。

スマートフォンにカメラが内蔵されるようになってから、わざわざカメラを持ち歩く必要もなくなり、それこそ文字通り、皆がみないつでも、どこでもフォーカスできる時代になりました。 壁に耳あり、障子に目ありどころではありません。人も歩けば激写に当たる時代なのです。

タイム誌だったと思いますが、近年一人の赤ちゃんが小学校に入る前までに撮られる写真は平均5,000枚だと報告していました。そこへいくと、ウチのダンナさんの赤ちゃんの時の写真など一枚もないのです。「そりゃ、オメー、当たり前だろう…。アメリカにやつけられて、食うや食わずの時に写真なんか撮る余裕があるはずないだろう」とのたまっています。

私の従妹に赤ちゃんが生まれ、フェイスブックに毎日のように赤ちゃんの写真が載り、送られてきます。最初、ワーッ可愛いと思って、見流していましたが(こんな言い方あるのかしら)、それが毎日のように5枚、10枚と送られてくると、いささか食傷気味になってしまいました。

これも5,000枚のクチです。おまけに2番目の赤ちゃんが生まれましたから、二人で1万枚コースになることでしょう。わが子を可愛いと思わない母親、父親はいないでしょうけど、それを他の人に見せたり、押し付けるのは問題ありですね。

スマートフォン、デジタルカメラ時代は、同時にインターネットのフェイスブック時代になり、簡単なキイ操作ひとつで、何十、何百という人に写真を送ることが可能になり、写真が溢れ過ぎるようになってしまいました。

一枚の写真にコモッタ感慨、感動がなくなってしまったように思えるのです。こんなことを言う自分が、なんだかえらく年寄り臭くなった気がします。

高校の時、卒業アルバム制作で、写真係りを務めた私ではありますが、未だにデジタルカメラもスマートフォンも持っていません。時折、古いアルバムを眺めるのは好きなのですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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