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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第604回:警察に車を止められる確率の件

更新日2019/04/11



アメリカ人なら誰でも、お巡りさんに車を止めれられた経験を持っているはずです。
ほんのちょっとスピードを出し過ぎていたけど、周りの車は皆私よりスピードを出していたのに、どうして私だけが捕まるの? 信号が途中で黄色から赤色に変わってしまったけど、前の車が携帯電話で話していて、すぐに発進させずノロノロ運転をしていたせいなんだけど…、道路わきの雪の山でストップサインが見えにくかったのよ、道路が凍っていてスリップしたんだ、たったビール2杯しか飲んでいないのに酔っ払い運転?……と、日常的に車を使って生活しなければならないアメリカ人は、皆それぞれ何らかの違反物語を持っています。なんせ、私の友人で100歳を越したディーンも車を手放さずに運転している国のことですから…

イギリスの王室、エリザベス女王のダンナさん、90歳を遠に越したエジンバラ公ですら、つい最近交通違反で捕まっていますから、ましてや車がなくては生きられないアメリカのことです、パーティーや家族の集まり、教会関係の集会などで話題に欠いた時、政治の話や宗教の話は禁物ですが、お巡りさんに車をストップさせられた自分の経験を話し始めると、我も我もと体験談を語り出し、盛り上がることは請合いです。

数年前、両親が通っている教会の地下で(アメリカの多くの教会は地下に大きな台所、ダイニングルームがあります)何かの集会があり、どういう理由からか私も同席したことがあります。そこに父が遅れてきて(いつものことなんですが…)、「交通違反で捕まって遅れてしまった…」と言ったのです。彼が信号を渡り始めた時は、ちゃんと青だったのに、途中で黄色、そして赤色に変わり、広い道路を渡りきったところに丁度お巡りさんがいて捕まってしまったのだ、と言うのです。

父は超の付くほどスローモーで、すべての反応、動きが妊娠中のメス牛のように遅く、一緒に車に乗っているとイライラさせられます。遅すぎる運転で罰金をくらった珍しい例かもしれません。彼が体験談を微に入り、細に入り語り終えるや否や、教会のエライサンたちまでが、自分の体験談を語り始めたのです。

地下にある、子供たちのための日曜学校教室からジープのオモチャやジーアイ・ジョーの人形を持ち出し、まるで大災害の実況中継のように、具体的に6車線のハイウェイのどこをどんなスピードで走っていたら、急にカットインしてきた若者がいて、それを避けるため、事故を未然に防ぐために、ショルダー(ハイウェイには一車線分くらいの遊びがあり、パトカー、救急車、消防車などはそこを突っ走ります)に乗り入れて走ったら、前にパトカーがいて捕まったとか、イアー、私なんかもっとひどい目に遭ったとばかり、皆が皆興奮気味に語るのでした。

明らかに交通違反をしていて捕まるのは、身から出たサビ、運が悪かったとして諦めもつきます。ところが、意味もなく停車させられることがあるのです。警察の方に何か疑わしいと車を止める深い理由があるのかもしれません。盗難車の疑いがある、どうも違法のドラッグを運んでいそうだとか、なんらかの事情があるのでしょう…。

ウチのダンナさんは、そんな風にして3度も止められています。車の所有検証、保険証、運転免許証を提示させられ、もちろん異状がないので行ってよいと釈放?されたのですが、権力を笠に着た役人を特に嫌うダンナさん、運転席の窓を開けるなり、「俺が酒を飲んでいるとでも思っているのか? まず止めた理由を言ってくれ!」と、お巡りさんが口を開く前に切り出すのです。放っておくと、どっちがお巡りさんなのか分からないような態度をとるのです。

彼によると、公務に就いている役人は、まず、自分の名前、所属、そしてストップを掛けた理由を明確にする義務があるのだそうです。私は必死になって、アメリカ人の交通巡査、ハイウェーパトロールは、兵役から帰ってきて仕事がない人などが就く最低の仕事で、彼らも人間だから、優しく下手に出てやらなければ、痛い目に遭う…と、いつも説得しているのですが…。

ウチのダンナさんが私たちより警察に止められるは、いつもホームレスみたいな格好をしているせいでもありますが、彼が色付き、有色の東洋人だからです。

昔、私たちの家の屋根を張り替えてもらった時、来てくれた職人のトーマスは、ストライキングなマッチョで、ハンサムな黒人でした。彼が連れてきた相棒も、大変な筋肉マンの黒人でした。毎日、仕事を終えた後、ダンナさんが、ご苦労さんとビールを一緒に飲んでねぎらっていましたが、最後の日、ダンナさん、自分は家で飲まないからと、飲み残した缶ビール12パックを彼等に持たせてやったところ、トーマスが大きなスーパーの茶色の紙袋に入れてくれないかと言うのです。むき出しのままビールを彼らのトラックの座席に積んでいるだけで、万が一警察に止められたら面倒なことになるし、数日拘置所に入れられかねないと言うのです。

ダンナさん、そんな馬鹿な…と憤っていましたが、彼らは、「こりゃ、黒人になってみなきゃ分からないこった。今まで何十回となく理由なく止められたからなぁ…」と言うのです。どうもウチのダンナさん、中間色のベージュ色の肌で、まだ救われていたようなのです。

スタンフォード大学が50州の警察署に対してアンケート調査を行いました。州によっては車をストップさせた時、運転している人の人種というか、白人であるか黒人であるかをレポートし記録する義務がないところもありますが、その調査によると、はっきりと黒人は白人より警察に車を止められ、何やかやとチェックされる確率が高いことが判りました。

イリノイ州のクック郡では2.8倍、多くの州では1.5倍の確率で、黒人はストップをかけられているのです。屋根葺き職人、黒人のトーマスは、それだけでも大変な人生を送っていたのです。

ですから、現実を踏まえた黒人は、疑われるようなモノは持たず、警察には逆らわず従順に従う、間違ってもウチのダンナさんのように、「まず先にお前の身分証明書を見せろ、どういう理由で停車を命じたか明らかにしろ…」などとは絶対にやりません。でも、いきなり警察にピストルを突き付けられ、思わず反射的に手で払ったりすると、抵抗したとして逮捕されるか、悪くするとそのまま撃たれてしまうことだってあるのです。

実際に、黒人ドライバーが警察に撃たれる事件がたくさん発生しています。このような事件の証言を集めて載せているサイト“For Black Motorists, a Never-Ending Fear of Being Stopped”を観ると、ダンナさんがしょっ引かれなかったのが不思議なほどです。

温厚誠実を売りにしているはずの自称仙人のダンナさん、このサイトをよく観て、学生運動時代の名残りのような官憲に逆らう態度を止めて貰いたいものです。アメリカで生きる以上、その程度の妥協はしなければならない…と思うのですが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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