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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第205回:本当に"原子力発電所"は必要なのか?

更新日2011/04/14

コロラドの山麓で、脳天気に暮らしている私にしては、とんでもなく大きな題をつけてしまいました。 

世界にある原子力発電所の数では、アメリカが一番多く104基あり、次いでフランスの58基、そしてほとんど同じ54基が日本にあります。その原子力発電所で、アメリカは20%の消費電力を補い、日本は29%を担っています。フランスだけが異常に高い75%をも原発に頼っています。

アメリカ、フランス、日本が、原発御三家ですが、現在、世界で建設中の原発が65基もあり、その40%に当たる26基が中国で計画または建設中です。

確かに、地球温暖化の悪役である二酸化炭素を原発は出しませんから、その意味だけから言えば地球に優しいと言えなくもありません。

電気はスーパーで買い物をするのと違い、このメーカー、このブランドが良いとか、好きと電気を選ぶわけにはいきません。私が使っている電気の20%は原子力発電所から来ているのですから(電気に色が付いていないので、この電気は水力発電所から、この電気は火力発電所からと区別できません)、原発反対と大声で言えないのが辛いところです。

今回の福島原発の事故を受けて、スイスでは計画中の原子力発電所の建設を取りやめにしましたし、ドイツのメルケル首相は古い7基の原子力発電所の閉鎖を決定しました。アメリカで最後に原子力発電所が建設されたのは1996年のことです。しかし、26%のアメリカ人だけが明確に原子力発電に反対していますが、70%近くの人は身近な関心を持たないのか、あってもいいんじゃない程度の意識しか持っていません。

ニワカ知識を仕入れるために調べてみたところ、アメリカの原子力発電所の廃棄物、冷却水などの処理方法は簡単にインターネットで誰でも見ることができるのに対し、ウチの仙人を動員しても、日本では何トンの原子力発電所の廃棄物をどのように処理しているのか、冷却水に含まれる各発電所の放射能の数値(おかげで今まで聞いたこともなかったmillisievert=ミリシーベルトという単位に馴染んでしまいました)が、一般に公表されていないようなのです。

コンクリートやガラスの瓶を砕いたセメントの中に押し込め、地下300メートルに埋め込むしか方法がないのが現状のようです。それにしても、一度汚染された土地が元の農耕可能な状態になるまで、最低300年はかかると言われています。

日本が世界でトップレベルの原発管理、耐震、耐津波処置をしていることに、世界で疑う人はいません。技術者も安全管理も世界で最高なんだそうです。ですが、ここにもう一つ、情報を公開する、言ってみれば正しい情報を誰でも見ることができるようにする意識が欠けているように見えるのです。

私たちはプロ、専門家なのだから、素人が口を挟むなといった態度が見え隠れし、普通の人々の知る権利を侵しているのです。そして、私たちは表向きの見解と本音に大きな差を見つけ、政府や原発関係者を信用できないと思わせているのです。これは外国からの記者たちが口を揃えて言っていることでもあります。

偉いサンたちは、民衆を不安に陥れるようなジャーナリズムを嫌う理由があるのかもしれませんが、逆に正確な情報を数値できちんと説明できない原発担当者の方に、私たちを不安にする原因があるように思います。 

と、日本の原発、政府批判になってしまいましたが、話を元に戻して、世界の最高レベルの安全性を誇る日本の原発ですら、自然の力の前にはあっさりと崩されてしまったのです。日本の海岸線の40%が防波堤などのように人工的に保護されていますが、10メートルを超す津波を想定して作られているわけではありません。

今回のような大地震と巨大な津波は250年から300年に一度しか起こらないと言う統計もあり、そんな極々たまにしか起こらない災害のために巨額のお金を使い、災害に備えるのは馬鹿げている、現実的でないと考えるか、何百年に一度の災害でも、それが国を滅ぼすほどのことになるのなら、万全を尽くすべきだと考えるかは、人生の悲観論、楽観論、哲学的な問題になってしまいます。

200年、300年に一度と言ってもあくまで統計上のことで、二度三度と続けて起こらない保障はどこにもありません。地震と津波は天災ですが、海岸に建てられた原子力発電所による放射能漏れは人為的災害で、初めからそんなところに原子力発電所を造らなければ起きない災害です。

日本の名物、地震とそのままtsunamiと綴られ世界的用語にまでなった津波の2大脅威がある以上、原子力発電にこれほど向いてない国はないでしょう。日本はプロメティウスの火をいじってはいけない国だと思います。ギリシャ神話のプロメティウスの話は色々なバリエーションがありますが、プロメティウスは人間にまだ扱いきれない火を与え、ゼウスの怒りをかい、罰として岩山に鎖でつながれ、鳥に内臓をツツイテ食べられるとい拷問にあう話です。

言語学者の端くれとして、チョット知識をひけらかせてもらえば、「プロ」とは先見、予測を表し、「メティウス」は知識、思考することです。ですから、プロメティウスは"先見の明を持つ者""よく先のことを考える人"の意味です。

火を持つことで、人類は料理の幅が無限に広がっただけでなく、想像を絶するほど進歩しました。ですが、この新しい火、原子力はまだ人類が充分にコントロールできない、あまりに危なすぎる火のように思います。種を絶滅させる可能性のある「火」をあえて扱う覚悟があるのか、それを政府や大企業に許してきたのは、私たち自身ではなかったのかと思うのです。

プロメティウスは、幸運なことにヘラクレスが助けに来てくれましたが、放射能に冒された私たちを誰も助けにきてはくれません。

人類を救うには、「危険な火」を持たない、持たせない決断を自ら下すしかないと思います。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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