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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第606回:寄付金と裏口入学の現実

更新日2019/04/25



ウチのダンナさんの姪の息子さんが日本の国立大学に受かり、「受かったよ」と電話してくれました。その電話を受けたダンナさんの喜びようったらありませんでした。日本では国立、公立と私立大学の学費の差がかなり大きいので、それだけでも親孝行になる…と、ダンナさん解説していました。

アメリカには国立大学というのは、ウェストポイント(陸軍士官学校)のような軍関係しかありません。他は州立、市立、私立です。学費はそれこそ天と地ほどの違いがあり、東部のエリート大学などは、私が勤めている州立大学の4、5倍の授業料をとっています。ですが、同時に、それらの大学は奨学金制度が確立しており、貧乏で優秀な相当数の生徒さんを優遇しています。

私が勤めている大学はコロラド州立ですが、ここでも年収の少ない親を持つ学生さんは、授業料免除の恩恵を受けることができます。

大学もビジネスになってきて、ヒルトンホテルのような学生寮(これはウチのダンナさんの表現です。何しろ彼が日本の大学で入っていた寮は、アウシュヴィッツのバラック以下だったと言っています)、広大なスポーツ施設、フットボールスタジアムそれとは別に野球場、観覧席つきのバスケット、バレーボールコート、競泳プール、サッカー場、テニスにラクロス場、オッと忘れるところでしたが、ハイテックを駆使したヴィジュアルな授業ができる大型モニターなどを備えた教室などなど、素晴らしい施設で学生を集めようとしています。よそ目にはなんともハデハデしい設備、施設が並んでいるのです。先生たちや教授陣の質はさておいての話ですが…。

アメリカの大学はどこも盛大に寄付を受け付けています。その大学を出て成功したOBたちが、どうせ税金で取られるくらいなら大学へ寄贈しようとするのでしょうか(大幅に所得税が控除になるのです)、大学の予算の半分以上が寄付でまかなわれているところは珍しくありません。それは州立、私立も同じです。

ハーヴァード大学では寄付をしている人数全体の4.6%が寄付総額の42%を占めています。ということは、極めて少数の人が莫大な寄付をしていることになります。トランプ大統領の義理の息子ジャレット・クシュナー(Jared Kushner)、あのロシア疑惑の当人です。彼の親がハーヴァード大学に2.5ミリヨンドル(2億7,500万円相当)を寄付したことを認めています。

ブッシュ元大統領(息子の方)も、親父さん、元大統領がかなりの寄付をし、入学しています。このように透明性を持った寄付、基金のあり方は違法行為ではありません。寄付する側もそれを受ける大学側も(ある程度ですが)お金の動きを公示しています。

ところがです。成金や映画スター、タレントがそれじゃ私の、俺の“バカ”息子、娘をエリート大学に財力で入れてやろうじゃないかと、賄賂を大学そのものではなく、関係者、スポーツ監督、信任評議会(Board of Trustee)のメンバーに贈り、“便宜”を計ってもらおうとしたのです。とても大学に入れそうにない成績のバカ息子、娘ですから、SAT(Scholastic Aptitude Testing;打ち明けて言えば、私はこのテスト作りにかかわったことが2度あります)、ACT(American College Testing)の結果は悲惨なものなのでしょう。この両方の全米規模の学力テストの成績如何でどこの大学に入れるかが決まります。そんな甘やかされ放題の子供がSATやACTで良い点数をとれるわけがありません。面接と作文を実行しているところはありますが、個々の大学の入学試験は存在しません。

我が子可愛さの親心でしょうか、SAT、ACTのテスト結果をごまかして大学に提出していることが分かったのです。最近、高性能のカラープリンターが出回っていますから、SAT、ACTから送られてくるテストの結果の数値を書き換えていたようなのです。ほとんど、偽札造り同様の公文書偽装で、立派な犯罪です。

FBIが捜査に乗り出し、告発を始めたのです。これぞアメリカ的に、我が子を有名大学に入れるための会社、エージェントが現れ、どこそこの大学なら幾らと、会社がお金を受け取り、会社が様々なコネを使い、賄賂をバラ撒き、入学させていたことが明らかになり、その会社の持ち主ウイリアム・リック・シンガー(William Rick Singer)に今年の2月、有罪判決が下りました。彼が受け取っていた金額は25ミリヨンドル(27億5,000万円相当)になります。

どこの大学もスポーツに異常に力を入れていて、特別予算を組んでスポーツ選手を高校からリクルートしています。一定の枠内での協約ですから、スポーツ奨学金制度は違法行為ではないのですが、ボンクラ息子、娘はスポーツに打ち込むほどのハングリースピリッツもありませんから、主にマイナーなスポーツの選手枠で、そのスポーツの監督、リクルーターにゴソッと金品を贈り、入学させていたことが分かったのです。

パソコン、タブレットで他の人と首、顔を入れ替えるのは、若者にとって朝飯前のことです。テレビのスター女優、ロリー・ローリン(Lori Loughlin;ダンナさんはファッションデザイナーのモッシオ・ジュアヌリです)は娘が競漕チームの一員として、ボートを漕いでいるように見せるため、写真の首をすげ換え、スポーツ入学させていたことがバレてしまいました。もちろん、大学の競漕チームの監督に5,500万円相当の心付けを贈っています。日本でもよく知られている南カルフォルニア大学のことです。

ハーヴァード大学のフェンシングチームの監督は、実際の価値32万4,000ドル(3,564万円相当)の家を98万9,500ドル(約1億1,000万円相当)で買い上げてもらい、その見返りに買い主の息子を大学に入れています。このペーター・ブランドというフェンシングのコーチはとても有名で、優秀なフェンシング指導者だそうです。

このように、親バカも極まった行為が続々と明るみに出てきました。スタンフォード大学、イエール大学など、有名なアイヴィーリーグの大学をはじめ六つの州、9校に及び、50人の不正入学が露見したのです。結果、33人の親と9人のスポーツコーチが告発されました。

最大20年の刑が下される可能性があります。その内の14人の親が罪を認め、有罪判決を受けました。残念ながら、大きな罰金と執行猶予付きの刑で、禁固刑にはなりませんでした。もちろん、そんな人たちですから、お金に物言わせて最高の弁護士を使ったのでしょうけど…。

大学で薄給の教職に就き、もう30年近くになりますから、一家言とは言いませんが、それなりの意見を言わせて貰えれば、バカ息子、娘を持った親から、寄付を公明正大に受け取り、それを公示すべきです。下手に裏口だとか何とか言わずに、勉強のできない子供(親バカ)に、SAT、ACTの点数の足りない分は寄付金でカバーしなさい、1点につき1万ドルづつ払いなさいとやればよいのです。そんな学生が、1年目の単位すら取得できないのは明らかですが、お金を貰って一旦入学させ、それからドンドン落第させ、バッサリ切れば良いのです。 

バカ息子、バカ娘から受け取った寄付金で、貧しく優秀な学生のための奨学金基金を設けるのです。“親バカ奨学金”とでも名づけてはどうでしょう。これで、親はお金で買えないモノがあることを知るだろうし、子供も日々の努力なしに得ることができないモノがあることを知るでしょう。貧乏学生の救済にもなり、一石三鳥か四鳥です。

これ、素晴らしいアイデアだと思いませんか? 

引退間近の老婆教授が何をほざいているのか…と言われそうな気もしますが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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