第381回:お国自慢と独立運動
第二次世界大戦の後、アジア、アフリカで独立運動が起こり、たくさんの国が生まれました。元々西欧の国々が侵略し、植民地だったところですから、民族、部族で自決独立し、自分たちの国を作ろうというのは長年の悲願でした。そんな建国には、おめでとうと心から祝ってあげたい気持ちになりました。アメリカがイギリスから独立したのも、そう昔のことではありませんが…。
近年の独立運動は、かなり様相が違ってきました。今回のスコットランド独立のための住民投票は、接戦が予想されましたが、蓋を開けてみれば10パーセントもの差をつけてU.K.(ユナイテッド・キングダム)に止まる方が勝ちました。
投票率に関係なく一票でも多い方を勝ちとするというのですから、スコットランド人はさぞ熱くなったことでしょう。しかも、16歳以上に投票権が与えられ、若者も大いに沸いたことでしょう。チョット興奮しすぎて、一部、工場の多いグラスゴーでは、若者が喧嘩をオッパジメたりしましたが、全体的にはとても冷静な選挙運動、キャンペーンを展開していたのが印象的でした。
パブでも生ビールをYESビール、NOビールと分けてジョッキに注ぎ、同じパブの中で一杯やりながらお互いに議論を戦わせている風景は、ウーム、さすがスコットランド人、イギリス人だと奇妙なところで感心させられました。YESビールとNOビールの両方を飲んで、酒利きをやってみたいとまで思いました。これが他の国なら、とてもあんな平穏な独立選挙戦にはならなかったでしょう。やはり、民主主義の根の深さ、歴史の重さがあるのでしょうね。
キャメロン首相は、「スコットランドの人々、私を嫌うならそれでよい。私はこの仕事に永遠に留まるわけではないのだから。しかし、スコットランドが一度イングランドを離れ独立したら、それは恒久的な決定なのだ」と、なかなかうまいことを言っていましたし、しまいにはエリザベス女王まで、「くれぐれも、慎重に選択するように」と、早く言えば、U.K.に止まりなさいとコメントを出したりで、とても賑やかなことでした。
スコットランド独立運動を推進してきたアレックス・サーモンド(Alex Salmond)スコットランド議会首相の引き際も鮮やかでした。「45パーセントもの票を独立賛成派が得たことの意味は大きい。こうした選挙が公正に行われたこと自体が民主主義の勝利である。しかし、選挙に負けた私は、首相、議員職も辞める…」と宣言したのです。
最近、ロシア、クリミア、ウクライナ、中国のウイグル地区などの血なまぐさい民族、独立運動ばかり見聞きしていましたから、今回のスコットランド独立選挙が、とても新鮮に見えたのかもしれません。
くすぶっている独立運動は世界中にあります。アメリカも例外ではなく、一番大きな州、テキサスでは、長年独立運動が続いています。テキサス州出身の大統領が結構多いのですが、自分の州から大統領が出ている時には独立運動は下火になり、他の州出身で、その上民主党の大統領の時に独立運動が盛んになるという奇妙な傾向があります。
多い時にはテキサス人の34.1パーセントもの人々が独立賛成と言っていますから、無視できない勢力ではあります。でも、他の州の人たちは、またテキサス人の大ボラが始まった…くらいにしか受け止めていません。テキサス人はとかく大ボラを吹くので有名なのです。
北海道も独立しようという動きがあったと、ウチのダンナさんが教えてくれました。でも、北海道独立は明治維新の時、佐幕派だった榎本武揚が唱えただけで、北海道民の意思とは無縁の独立論議のようですし、その後、1960年、梅棹忠夫さんの『北海道独立国家論』は、ダンナさんの解説によれば、ただ注目を集めるためだけの実質のない空論で、ユニークで面白いけど、学者のお遊び論だったそうですね。日本では、どこかの県が独立するようなマジメな運動は成り立たない条件が揃い過ぎているのでしょうね。
一般的に、自慢話は常に聞くに堪えないものですが、一つだけ楽しんで聞くことができるのは"お国自慢"ではないでしょうか。それは、きっとその土地に根ざし、その土地を本当に愛してきた人たちの感情が溢れているからでしょう。お国自慢には、自分がその土地で生まれ育ったからだという歴史があり、同時に他の土地の人もそれぞれお国自慢があって良いという、他を認める広さ、優しさがなければ成り立ちません。
間違って一歩踏み出し、排他的愛国主義、国粋主義に陥るともういけません。民族自決、独立、自分の国を持つというのは分かりやすく、すぐにも賛成したくなるのですが、民族間、部族間の争いを増長させ、グローバリゼーションの傾向に、逆行しかねません。
お国自慢を抱きつつ、近隣の人々と枠の緩い国をつくるのが理想なのですが…。
第382回:アメリカで黒人であること
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