第492回:アメリカの贅沢な避難民
もしトランプが大統領になったら、アメリカから逃げる…と言っていた友人はたくさんいましたし、私たちも冗談半分にアメリカ脱出作戦を語っていました。
私たちの知り合い(超成功組の妹を通じての知り合いですが)にハイテック関係の大金持ちのカップルがいます。中国系のダンナサンとベトナム系の奥さん夫婦ですが、熱狂的な民主党サポーターで、今回の大統領選挙でもヒラリー応援運動をアメリカ中飛び回り熱心に行っていました。
彼らは1年も前から、「もし、トランプが選挙に勝つなら、アメリカを出る、ニュージーランドに移住する」と公言し、彼が持っている会社のニュージーランド支社を通して、その準備を進めていました。
トランプが選挙に勝った時、スワッ、アメリカから逃げようとする人たちが膨大な数になり、お隣カナダ移民局のホームページへのアクセスが多すぎて、パンクしたニューズは世界中に流れました。
私たちにとっても、大いに遊べそうな山も海もあるカナダはとても魅力的に思えます。しかし、長年、地中海、カリブ海と暖かいところばかり、ノンキなセーリングをしていましたから、どうにも寒空の下で海に出るガッツがなくなってしまいました。お年寄りは、暖かく、物価の安いところでなければリラックスできません。
カナダ移民局のサイトは良くできていて、まず自分にどのくらい、カナダに受け入れてもらえるチャンスがあるか自己診断できるようになっています。それを100点満点でその時のカナダの内政事情により、70点以上なら受け入れる可能性があるとか、今移民は要らないから80点以上取らないと、申請書類を受け付けないという具合に時事変わります。
英語、フランス語が堪能である、大学を卒業している、特殊技術を持っている、カナダの企業からすでに招待状があるかどうかなど細部に渡り、ポイントを振り分けています。それを見てウチのダンナさん、「ムムッ、こりゃオレ可能性ないなあ~。チェンソーで薪を切り出すとか、ボロ屋の修理くらいしか能力がないからなあ~。そんな男はカナダにゴマンといるしな~」と、最初からあきらめムードです。
お隣と言えばメキシコも国境の南ですから、それに暖かい上生活費も安いですから、メキシコに移り棲もうというアメリカ人がたくさんいても良さそうなものですが、逆に極単に少ないのに驚かされます。
トランプは万里の長城のような立派な塀を造ると言っているので、アメリカから大量のギャングたちがメキシコに侵入してくる心配はない…と思うのですが…。
メキシコでは17万2,000ドル(1,800万円相当)以上の不動産を買うとか、同額をメキシコの企業に投資するとかすると居住権が与えられます。そんな代理店もたくさんあり、地元の事情に通じたスペイン語使いがすべて面倒をみてくれるます。
そんなメキシコ移住代理業者はもちろん不動産屋さんとつるんでいて、インターネットで覗くと、誰もいない砂浜を老夫婦が手をつないで歩いている写真とか、エッ、2,000万円でこんな素晴らしい海辺の別荘が買えるの!
と溜め息が出るような写真が載っています。
中米の国々はどこもメキシコと同じような定年退職者移住プランを作り、老後はわが国で! とばかり呼び込みに一生懸命です。コスタ・リカでは質の高い医療システム、中南米で一番安全な国をセールスポイントにしていますし、パナマではタックスフリー、金融天国を前面に打ち出しています。
外国語が不得意なアメリカ人はとかく米語の通じるところへ行きたがり、住みたがります。となると、中南米で唯一の英語を話せる国ベリーズに人気が集まります。そして、カリブの島々の旧英国植民地だった島に群がります。
麻薬の中継地として犯罪の多いカリブの中にありながら、St. Kitts
and Nevis(セントクリストファー・ネイビス)は、犯罪がとても少なく、安心して棲むことができると売り出し中です。ですが、ここへは4,000万円相当以上の不動産、投資プラス月30万円以上の年金収入が条件ですから、小金持ち向きと言えます。
確かにこの島は絵葉書のように美しいところです。私たちはヨットで放浪している時、1週間ほど島の湾にアンカーを下ろし、手漕ぎボートで島に上陸し、探検しましたが、余生を送るには何もなさ過ぎますし、理想郷の離れ小島というより、島流しに近い暮らしになってしまうことでしょう。
中南米、カリブの島々共通して言えるのは、リタイヤ組みの住宅が現地の人たちが生活している場所から隔絶していることです。ゲイテドコミュニティーと呼んでいますが、早く言えば、退職者団地の外を長城で囲い、現地人の立ち入り禁止地区にしているのです。
ゲイトにはもちろんガードマンがいて、悪者、怪しげな人の立ち入りをチェックしています。それだけ、その居住地区にいる限り安全、安心だとは言えますが、私たちは多少の不便、不安はあったとしても、その土地の人、現地人の中で暮らすのでなければその国に住む意味がないと思っています。景色や気候が心を満たしてくれるのは初めの数ヵ月だけでしょう。そこに住む人間あっての国だと思うのです。
もっとも、トランプのアメリカから逃げるというのはとても贅沢なことです。
考えてみるまでもないのですが、何百万人もいるシリア、チュニジア、エジプト、リビアからの難民とは次元が違い過ぎることなのです。
ダンナさんに言わせれば、「ちょっとイカレタ男が大統領に選ばれたくらいでジタバタするな、歴代の大統領にも相当酷いのが何人もいたんだから…」。ここまでは歯切れがいいのですが、「でも、ヒットラーも最初は選挙で勝って、政権を取ったんだったな~」と沈んでいます。
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