■グレートプレーンズのそよ風 〜アメリカ中西部今昔物語


Grace Joy
(グレース・ジョイ)




中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。



第1回:ウイルカーおじさん その1
第2回:ウイルカーおじさん その2
第3回:ウイルカーおじさん その3
第4回:私のポニィー その1
第5回:私のポニィー その2



■更新予定日:毎週木曜日

第6回:私のポニィー その3

更新日2006/04/06

何ヵ月もの間、デイジーの体には全く変わりがありませんでした。私はウイルカーおじさんにうるさく付きまとい、本当に赤ちゃんが生まれるのか、それはいつになるのか何度も尋ねました。春に交尾し、もう秋になるというのに、デイジーのお腹は一向に膨らんでこないのです。

その間、私は手回しの荒挽き用のグラインダーでトウモロコシと燕麦を挽き、そこへ熱湯を注ぎ、かき混ぜ、デイジーの朝ごはん“マッシュ”を作って食べさせていました。もうその時、私は小学校に行っていましたが、朝学校に行く前にそれを済ませておかなくてはなりません。私の仕事は家全部のランプのホヤを磨き石油を足し満杯にしておくこと、そして鶏小屋を開け鶏を外に出し、餌を蒔き、卵を集めること、ペット、犬やねこに餌と水をやること、そしてデイジーの世話でした。実際、田舎では皆よく朝早くから夜遅くまで働いたものです。

余談になりますが、ミシガン州の大学に行き日本語を少し覚え、アルバイトである日本企業のお手伝をしたことがります。アメリカのどこの地域に工場を建てたらよいかという調査でした。西海岸や東海岸の人は短い時間に集中して仕事をするが、年間通して単調な仕事をこなす労働は一見、ノロノロ遅いようだが、中西部の人に向いている。長い目で見た生産性は中西部の人間が上だ、という調査結果でした。これはきっと中西部人が基本的にお百姓だからでしょう。

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ミッシィーにキスしている私。
ミッシィーはハックニィー種の馬で
シェトランドポニィーに比べかなり大型です。
ミッシィーは神経質で臆病な馬でした。

日が短くなり、朝夕の寒さが堪える季節なっても、まだデイジーのお腹は変わりませんでした。ウイルカーおじさんは、デイジーのマブタを裏返したり、唇の色を見せたり、または黒ずんだ乳首が幾分大きくなり張ってきたのを見せ、「大丈夫。立派な仔馬が生まれるよ」、と私を安心させるのでした。

突然、と言った感じでデイジーのお腹が膨らみ始めたのは10月の終わり頃だったでしょうか。それからは日に日にデイジーのお腹は大きくなり、習慣になっていた、牧草畑(もう刈り入れを終えている)を4周する散歩に連れ出すときに、私はデイジーに乗ることを止め、手綱を引いて回りました。ウイルカーおじさんは背に乗ってもかまわないと言っていましたが、私はデイジーに乗る気になれませんでした。デイジーの足取りもゆるやかになり、蹄をそっと大地に下ろすように歩くのでした。

年が明け、そして春になり、デイジーのお腹ははち切れんばかりの大きさになりました。私はしつこいくらいに念を入れ、どんな時間、たとえ夜中でもデイジーが子を産むときには必ず起こしてくれるよう、ウイルカーおじさん、お祖父さん、お父さん、お母さんに頼みました。

そんなある朝、いつものように暖かいマッシュをデイジーにやりに行ったとき、デイジーが苦しそうに息をし、体全体が引きつるように痙攣しているのに出合ったのです。私は飛ぶように牧舎で種馬の世話しているウイルカーおじさんの元へ走り、デイジーのことを知らせました。ウイルカーおじさんは一目デイジーを見るなり、「さーて、今日お前が学校から帰る頃には子馬が生まれていることだろうよ」と言いました。

母屋へ戻ってデイジーのことを皆に告げると、私が頼み込む前に、なんとお父さんが、「グレース、今日は学校を休んでデイジーと仔馬の面倒をみてやったらいい」と言ってくれたのです。学校を休むのはとても大きなことで、私が通った9年間、大雪で学校が閉鎖したのを除いて、休んだのはこの一日だけでした。

朝ご飯もそこそこに、馬小屋に戻ると、デイジーの体は大きく揺れ動き、敷き詰めた藁の上にドサリと横になるところでした。私がデイジーの額をなでようとしたのをウイルカーおじさんは、「お産の邪魔をしてはいけないよ。それより母屋へ行ってお湯をバケツ一杯運んできなさい」と言いました。

私が母屋に行っている間にデイジーがお産をするのではないかと気がかりでしたが、重いバケツを下げ急いで戻ってみると、デイジーは藁の上で四肢をもがくように、すぐその後にはピーンと突っぱねるようにのたうち回っていました。ウイルカーおじさんは距離を置いて静かに見ているだけです。

デイジーのお腹の皮が引きつり、苦しそうに首を突き出した時、お尻の方から白いビニールの袋のようなものが出てきました。初めは見え隠れするように、それからツルンと滑るように大きな袋がこぼれ出てきたのです。

その袋がモゴモゴと動き、袋を蹴破って中からヤセッポッチの仔馬が出てきたのです。ウイルカーおじさんは、いつも持ち歩いているナイフで仔馬からへその緒を切り、まだ濡れネズミのような仔馬を抱きかかえてデイジーの口元へ持っていきました。

デイジーはグッタリと疲れた中にも満足した表情で(馬にも表情があるのです)、生まれたばかりの子馬の体中をペロペロと舐め、鼻先で押すように仔馬を立たせようとします。ウイルカーおじさんはデイジーと一緒になって仔馬の目や耳、口の中をお湯で拭いてやっていました。

仔馬は懸命に立とうとしますが、ヨロヨロと転び、また立ち上がり四肢を開き、大の字になって踏ん張り、今度は一歩、歩こうとしては転び、そんなことをしているうちに、一時間もしないうちに、ギコチナイやり方ですが歩けるようになったのです。

デイジーはすでに立ち上がっていましたが、仔馬はギクシャクした歩みで、デイジーのオッパイのところへ直行し、お腹の下にもぐり込むと、すぐにデイジーの乳首を見つけオッパイを吸い始めたのです。

私は仔馬を『ヘザー』と名づけました。ヘザーはシロと茶のブチ(Paintと呼ぶまだらな模様)でした。私がデイジーに乗り、牧場の中をゆっくりと歩かせると、ヘザーは足元が定まらない、ポキポキした歩き方で付かず離れず付いてくるのでした。

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デイジーに乗っているのはお父さん。
私はヘザーに乗っています。
シェトランドポニィーは体は小さくても、とても足の丈夫な馬です。

-…つづく

 

◇◆◇◇◇◆◇◇◇◆◇

◆ヴェルマおばあさんの田舎料理◆

本文より、ヴェルマおばあさんの田舎料理の方に多くの投書が寄せられ驚いています。お料理に関心の深い人が余ほど大勢いるのかしら。それともアンチグルメ風の昔の田舎料理が物珍しかっただけかしら。

最南端の“メリーさんの子ヤギ”さんから:
“若い時分アメリカ、オハイオ州に住んでいたことがありす。グレースさんの記事、懐かしく読ませていただいております。ひき肉料理の“チリ”はうんざりするほど食べましたが、決しておいしい料理ではなかった。ただ空腹を埋めるため、下宿で出されたので食べていたのが実情でした。アメリカを離れてから、一度も食べたことがありませんが、一度挑戦してみます。


“メリーさんの子ヤギ”さんへ:
お便り、ありがとうございます。ヴェルマおばあさんのレシピで“チリ”を作り、若き日のアメリカでの生活を思い出してください。


西の方の“ミッチャン”さんから:
“アノネー、日本でトマト1個、幾らするのか知ってんの? それに、馬に食わせるわけじゃないし、一体これで何人分のつもり?”

“ミッチャン”さんへ:
ごめんなさい。私が育ったところでは、トマトをお金を払って買うというコンセプトが全くなく、トマト、イモ、鞘インゲン、グリーンピースは畑からいくらでも採れるもの、という環境でしたので…。量のことですが、このような煮物はある程度の量を作らないとおいしく仕上がりません。確かに日本の感覚では量が多すぎるでしょうね。でも、一回に全部食べなくても冷蔵庫に入れておいて2、3日してからの方がより味が馴染んでおいしくなるようですので、何日にも渡って食べることができますよ。是非果敢にチャレンジしてみてください。


大都会人の“さわやかさやか”さんから:
丁寧な挨拶の後、“子供のころ読んだ大草原の小さな家を思い出しました。これからも、末永く面白い昔話をお聞かせ下さい。田舎風ビスケット作ってみました。大成功と自画自賛したくなるような出来上がりで、家族全員に大好評でした。、、、、、、”


“さわやかさやか”さんへ:
このごろ私は牛乳の代わりにバターミルク(ドロドロした少し酸味のある牛乳)を使っています。サワード・ブレッドのような軽い酸っぱさのあるビスケットに仕上がります。色々なバリエーションでお楽しみください。


“雪国の深雪”さんから
“チリ、牛肉を豚肉に変えて作りましたが、とてもGoodでしたよ。”


“雪国の深雪”さんへ:
チリは寒い雪国に似合った食べ物かもしれませんね。ヴェルマおばあさんの時代、狂牛病もありませんでしたし、一番手頃だったのが牛肉でしたので、なんにでも牛肉を使ったのでしょう。


 

第7回:フリッツ その1


 
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