枕草子 第二回
その二 時 節
時節というものが、正月、三月四月五月七八九十二月と移り変わり、そうして一年が過ぎて行くのは、面白い。
その三 正 月
正月一日は、ましてや、空模様がうらうらとのどかで、珍しく、霞が立ちこめたりするなかを、世の中の、ありとあらゆる人がみな、姿かたちや心持ちをちゃんと整えて、誰も彼もが、お祝いの言葉を交わしたりするのは本当に面白い。
七日には、雪の中から芽を出した若菜を摘んで、いつもは、そのようなものなどは目にすることなど無いあらたまった所などで、みんなでわいわいと、青々とした若菜を見て騒いだりするのも、いかにも面白い。
五節会のお祝いの一つの、宮中でお酒を振る舞ってくれる白馬の節会(せちえ)を観にいきたくて、普段はそういうところには出入りできないような、まちなかに住む里人たちまでもが、清めた車を仕立てて観に行ったりもする。
車が中御門(なかみかどのところ)の、門を通る車の車輪が、がくんと沈むように彫込んである、門の内外を分ける敷居を渡る時に、乗っている人たちの頭が、いっせいに揺れてぶつかり合い、誰かの髪櫛が抜け落ちてしまったりなどして、そんな思いもよらないことで櫛の歯が折れたのを見て、笑い合ったりするのも楽しい。
東側の門の左衛門の陣のあたりまで来ると、殿上人(てんじょうびと)がおおぜい立っていて、その人たちに仕えて馬の世話をする舎人(とねりびと)に持たせてあった弓で、馬を驚かせて遊ぶようすを、ちょっと覗いて見たりした拍子に、ふと、目隠しに立ててある立蔀たてじとみの向うに、ご身分の高い主殿司(とものづかさ)や女官などが行き交うようすが垣間見えたりするのも楽しい。
いったいどういう人が、どんな運が九重(ここのえ)にも重なりあって、そういう身分になれるのだろう、とか思ったりなどもするけれども、見れば内裏(だいり)は意外に狭くて、舎人の素顔のずいぶんと黒い肌も間近に見えて、白粉がはげ落ちところなどは、まるで地面の雪がところどころ、むらになって溶け残っているかのようで、とても見苦しい。
馬が暴れて飛び跳ねるのもなんだか恐いけれども、そんなことなども、危ないからと、車の中に引っ張り入れられてしまったりして、あまりよく見えない。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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