枕草子 第九回
その八の三 姫宮の御方の童女の
今年四歳になられた姫宮、中宮さまと一条天皇との御子であられる脩子(ゆうこ)内親王さまのお世話をする童女(わらわべ)が身につける装束を新調するようにと、中宮さまがおっしゃられたとき、生昌ときたら、つきましては、その衵(あこめ)の上に着られる上襲(うわおそい)は何色にすればよいでしょうか、などと聞いておりました。衵はあくまで下着なのですから、単に上襲の色を聞けばいいものを、わざわざ衵の上に着る上襲などと言うものだから、中宮さまがお笑いになったのはあたりまえ。
そのうえ生昌は、姫宮がお使いになられる御膳なども、普段みんなが使っているような武骨な足が付いたものは可愛い気がありませんから、平たい角盆の、ちっこい折敷(おしき)のうえに、ちっこい足の着いたちっこい高坏(たかつき)なんかを配したものがいいんでなかろかな、などと、田舎訛りの混じった変な言い方をするものだから、私がつい、姫宮さまがそういう御膳で召し上がれば、さぞかし、下着に上掛けをかぶった童女たちも、お世話がしやすいことでしょうねと言うと、中宮さまは、そんなにしつこく、普通の人を相手にしている時のような言い方をして笑いものにするものではありません。このお方は、いたってまじめでおとなしい、謹厚(きんこう)なお方なのですからね、ほんとうに可哀相じゃありませんかと、おっしゃられたのが、なんだか奥ゆかしくて面白かった。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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