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■現代語訳『枕草子』
  ~清少納言の『枕草子』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2015/06/18



枕草子  第十一回

その九  一条天皇の

 今年二十一歳の一条天皇にお仕えしている猫さまは、五位の命婦(みょうぶ)の位をいただいている雌猫で、とっても面白いので、上様はとても可愛がっていらっしゃるけれども、よく御簾(みす)の外の縁の端で寝ていて、お世話係の(むま)の命婦が、あらまあ、そんなところで寝ていてはいけませんよ、お行儀が悪いでしょ、ちゃんと中にお入りなさいませ、と言っても、知らん顔をして、陽のあたるところで寝たままでいるものだから、脅かしてやろうと、馬の命婦が犬の翁丸(おきなまる)を呼んで、どこにいるの翁丸、早く来て猫さまの大切なところを噛んでやりなさい、と言うと、翁丸が本気にして走り寄ってきたので、猫はびっくりして、慌てて御簾の中に入った。

 その様子を、朝食をおとりになる部屋から、陛下がごらんになっていらっしゃったものだから、たいそう驚かれて、猫を懐に抱き抱えると、誰かこちらへと、男の人をお呼びになった。すると、上様の諸々のお世話をする蔵人(くろうど)の、源忠隆(みなもとのただたか)さまがいらっしゃったので、上さまは、忠隆さまに、この翁丸を打ってお仕置きをして、犬島に島流しにしてしまえ、今すぐにじゃ、とおっしゃられたものだから、翁丸を捕まえようと、みんなが集まって来て大騒ぎ。馬の命婦もおとがめを受け、上さまが、お世話係を代えよう、これでは心配でならぬ、とおっしゃられたものだから、馬の命婦は上さまの御前に出ることもできなくなり、翁丸のほうは、捕まって、宮中の警護をする滝口の武士たちの手によって、追放されてしまった。

 それにしても、なんて可哀相なことでしょう。いみじくも、体を揺すって宮中を歩き回り、三月三日には、中国の風習をまねて、頭に柳の細枝で編んだ輪を頭に載せられたり、桜の枝を腰に付けて歩かされていた時には、まさか、こんな目にあう日がくるなんて、夢にも想ってもいなかったでしょうにと、なんだか悲しくなってしまった。

 

 

※文中の色文字清少納言が用いた用語をそのまま用いています。

 

 

 

 


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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つの表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
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