枕草子 第十六回
山には
山には、おぐら山とか、鹿背(かせ)山とか、このくれ山とか、いりたちの山とか、わすれずの山とか、末の松山などと、昔のお歌に歌われていたりもする山もあるけれど、とにかく、いろんな名前がついていて面白い。
かたさり山なんて、言葉の意味からいえば、遠慮する山ということになるけれど、山が道を譲ったりするはずもないので、この山を登る時には、道を譲りあったりするのかしら、などと、いろんなことを考えたりして、とっても面白い。
ほかにも、いつはた山とか、かえる山とか、後背山とかいろいろあって、あさくら山なんて、昔の人のことなんてもう知らないわ、という有名なお歌に歌われていたりして、そんなことを思い出すのも面白いし、おおつれ山なんていうのも、臨時(りんじ)のお祭りの時のおおぜいの舞人(まいびと)なんかを思い出したりして面白い。
三輪(みわ)山も、手向(たむけ)山も、待ちかね山も、たまさか山も、耳なし山も、みんなみんな面白い。
※文中の色文字は清少納言が用いた用語をそのまま用いています。
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