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■よりみち~編集後記

 

更新日2010/05/27


イギリスのユニークな料理人、ジェイミー・オリヴァーのTV料理番組のDVDがなかなか面白い。制作は2005年とすでに古い番組なのだが、『Jamie's School Dinners』のシリーズ企画は、イギリスの食文化の実態が垣間見えて興味深い。スクールディナー=学校給食をイタリアンをメインとする創作料理のシェフが、イギリスの給食文化そのものを変革しようとする挑戦が描かれている。発端は、ジェイミーに子供が生まれ(現在は3人の子供がいるが、2005年当時は2人)、自分の子供にも、ロンドンのひどい学校給食を食べさせたくないという思いが高まり、学校給食の実態を自ら体験して、それをなんとか少しでも改善できたらという挑戦をTV番組の企画で実行しようというものだ。まずは、ロンドン市内の中学校の給食室で実態調査するが、1食80円という予算の制限のためか、ほとんどがジャンクフードのオンパレード。何の肉なのか誰も知らないハンバーガー、冷凍フレンチフライ、練り物のフランクフルト、練り物だらけの冷凍食品bかりで、給食室ではそれをオーブンで暖めるか焼くだけ。新鮮な野菜などどこを探してもでてこない。そのジャンクフードに慣れきったイギリスの子供たち(これはイギリスだけでなく、先進国と呼ばれる国々の子供はみんな大好物になっている)。頭を抱えるジェイミーは、こんな食餌を食べて育つ子供の将来を憂い、給食改革を自分の手で始めようと画策し始める。この問題意識はジェイミーだけでなく、各学校の給食担当者も常々考えていたことだったが、予算の問題、給食調理者の労働負担、そして子供たちの反発からなかなか手が付けられていなかったようだ。ジェイミーはモデル校を作ってそれで効果を上げる手法を考えた。問題意識の強い給食おばさんのノーラを巻き込み、給食の大改革が始まった。新鮮な野菜、給食室で本格的に調理したパスタやピザやフォカッチャなどをメニューに入れるが、子供たちの反応はひどいもので、見たこともない料理に反発し、給食を食べないで自宅からランチボックスを持ってくる子供まで現れた。そのランチボックスの中身はチョコレートバーやスナックなどの超ジャンクフードばかりで、家庭での食餌の意識の低さにもあきれ、親の料理教育も同時にやらなければならなくなった。イギリス人の料理に対する味音痴は有名な話だが、料理に対して実に保守的で、栄養教育などほとんどされていないイギリスの実態が見えてくる。親も給食と同じジャンクフードばかりを食べているし、それを当然のように子供に与え続けているから、子供もジャンクフード以外を受け付けなくなるのだ。ひどい例は、パスタを無理やり食べさせると吐き出す子供までいるのだ。とにかく毎日食べているモノ以外を口に入れようとしないのだ。ある子供はフレンチフライが主食で、家でも学校でもそれしか食べないのだ。当然のことだが、不調を訴えて病院に来る子供が後をたたないという。野菜などほとんど口にしないで、練り物のミートとフレンチフライばかり食べているから繊維質が極端に少なく、便秘症で悩む子供が非常に多いという。栄養失調が多く、キレやすく、集中力のない子供が増えている。ジェイミーは根気強く、子供たちにジャンクフードの怖さを教え、少しづつ野菜やスローフードを口にすることを覚えさせ、食べ物の素材のおいしさを給食を通して教えていく。最初はほとんどゴミ箱行きだったジャイミーの料理が徐々においしいと言われるようになってくる。すると、喘息の子供が直ったとか、午後からほとんど集中力に欠けていた子供たちがしっかり勉強できるようになったとか、キレる子供が減ってきたという報告が増えてくる。モデル校も増えて、文部省の大臣にも直接給食の改革を訴え、予算改善も提案し、給食担当者の改革も実施して、徐々にイギリスの学校給食の改革が始まっていった。
このビデオを観て、イギリス人の食生活の実態が見えて本当に驚いた。日本人の家庭にもファストフードが入り込み、インスタント料理やレンジ料理が普及し、給食のない学校の子供たちのお弁当がコンビニ弁当やスナック菓子になっているという話を聞いているから、そんなにイギリスの親たちを批判できないと思えるが、もうちょっと日本の学校給食は栄養のことを考えて調理しているだろうし、ジャンクフードの恐ろしさを子供に伝えているように思える。ただ、これは五十歩百歩なのかもしれない。どうしても簡単で便利な食べ物に手が出やすいのだから、イギリスの実態を他人の国と思わない方がよいのかもしれない。日本の給食従事者にも是非見せたいと思えるTV番組だった。

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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