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■よりみち〜編集後記

 

更新日2014/07/17


ブラジルで開催されたFIFAワールドカップは、準決勝でのブラジルの世紀の大敗(7−1でドイツに完敗)と、それと対照的で見事なゲームを展開した決勝ドイツVSアルゼンチン戦は、1−0でドイツの勝利で幕を閉じたのだが、いつもワールドカップの試合を見る度に、自分の中に流れる血にもナショナリズムが宿っていることを知らされるのだが、まさに国旗を背負った選手たちが死に物狂いでボールに向かい、自分の祖国のためにゴールをひたむきに狙う姿は、人々に文句なしの感動を与える。試合後に負けた国の選手に歩み寄り互いの健闘を讃え合い、相手を慰める姿にスポーツマンシップの素晴らしさを感じる瞬間である。あり得ない話だろうが、イスラエルとパレスチナが、今も続く爆撃やミサイル攻撃を中止して、武器をすべて捨てて、サッカーで思う存分フェアプレイの試合でケリをつけられたら、どんなに平和な社会になるだろうと夢想してしまう。試合終了後、互いに相手の健闘を讃え合い、次の試合は負けないぞと、笑顔で握手することができたならどんなに素晴らしい未来が見えてくるだろう。夢とは分っていても、希望は捨て去ることができない。

その昔、もう30何年前に中東を巡る旅をしていた時のことをよく思い出す。当時もイスラエルと近隣諸国との関係は今とそれほど変わっていない。パレスチナにはまだアラファト議長(パレスチナ解放機構;PLO)が頑張っていた時代だから、表面的にはパレスチナ暫定政権が自治区を守っていて、余所者からすると武装しながらも共存関係を目指しているように見せかけている国のように、居心地の悪い、どこかよそよそしい冷たい空気が漂っている時代だったようだ。エジプトのカイロからヨルダンのアンマンへ飛び、そこから陸路でイスラエルの国境である120mのアレンビーブリッジ(アレンビー橋)を乗り合いタクシーで渡りイスラエル側の出入国審査場に行ったのだが、橋の向こうから機関銃の銃口が向けられ、ピリピリした緊張感で満ちた車内は誰もが無言で、徒歩での通行は禁止されているから誰もいない細い道路を走る1台のタクシーだけが異常にゆっくりと走る光景が不気味だった。国境はどこの国も嫌な雰囲気なものだが、イスラエルのこの国境だけは二度と行きたくない。当時、中東を旅行する場合、イスラエルの入国スタンプがあると、近隣のアラブ諸国に入国拒否されるほど、忌み嫌われており、イスラエルもそのことを理解していたから、こちらが頼まない限りパスポートには直接スタンプをを押さず、別紙に入国スタンプを押して、それを携帯することになる。当時からプラスチック爆弾の持込みを警戒して異常なほどの時間をかけてすべての荷物が検査され、とにかく時間がかかった。午前中に出入国審査場に入って、パスポートチェックから荷物検査まで延々と時間ばかりが経過して、結局開放されたのは4時間近く後だった。今でもエルサレムのヨルダン川西岸地区に住むパレスチナ人は、イスラエルの空港から出国できないきまりで、このアレンビー橋の国境を陸路で渡ってヨルダンの空港から出国するしかないわけで、パレスチナという国はどこにも存在していないことを実感する。エルサレム市内でもアラブ人地区は確かにあるし、大勢のパレスチナ人がヨルダン川西岸地区に居住はしているのだが、余所者にも明確に分るのは、確実に管理された場所に住むことが許されている状態であることだった。街のいたるところに警備の兵士がマシンガンを持って立っており、とても共存というイメージではなかった。そして現在では、アラブ人地区には隔離するためのコンクリート壁が立ち並んでいるそうだから、さらに息苦しい状態になっていることは間違いない。

PLOの破綻後はイスラエルとパレスチナの関係は悪化の一途であり、暗殺と報復の繰り返しであり、現在はテロリズムを含めた武装闘争路線を貫くイスラム原理主義組織ハマースが実権を握っている状態で、ガサ地区を本拠地としてロケット砲による無差別攻撃を行い、エルサレムを首都とする完全な主権国家パレスチナを主張して戦闘を繰り返している。また、ガザ地区には他にも類似の武装集団が少なくとも10前後はあるとされ、過激派組織の暗躍によりパレスチナ内部も収拾不能な状態となってしまっているようだ。ロケット砲が無差別にイスラエル国内に打ち込まれ、その報復としてガサ市街の空爆が繰り返され、多くの市民や子供が犠牲になっているのが現状であり、国連による停戦の調停もすべて不調に終っている。ハマースの戦略は市民を楯にして、市民の犠牲者を出すことにより、イスラエルの非道な空爆を国際的にアピールすることで弱体化させることで、イスラエルは過激派組織の壊滅することで、ロケット砲などによる無差別テロの撲滅を目指しているわけで、このままでは市民の犠牲者は増加する一方である。このイスラエルとパレスチナの関係は、どこまで行っても平行線のままで、交わることはなく、互いに妥協し合い、接点を見つけ出す意外に解決の糸口はない。ただ今できることは、とにかく市民の犠牲者を止めるための停戦合意である。誰が怒れるライオンの首に鈴を付けられるのだろうか。今こそ人道主義に根ざした国連が、宗教や民族や国益などを超えて動き廻り、世界中の英知を結集して停戦させ、共存の道筋をつくるしかないように思える。(越)

 

 

 


■猫ギャラリー ITO JUNKO

 

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