■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4
第58回:ブッチのエピソード その1
第59回:ブッチのエピソード その2
第60回:The Sundance Kid (サンダンス・キッズ) その1
第61回:サンダンス・キッズ_その
第62回:サンダンス・キッズ_その3
第63回:サンダンス・キッズ_その4
第64回:サンダンス・キッズの初仕事
第65回:ベレフォーシュ銀行強盗
第66回:アウトローと愛国心
第67回:ジョー・ウォーカー その1
第68回:ジョー・ウォーカー その2
第69回:自分の葬式に参列した男
第70回:ジム・ローウズという男
第71回:ジム・ローウズという男 その2
第72回:ウィルコック列車強盗事件

第73回:ウィルコック列車強盗事件 その2
第74回:ウィルコック列車強盗事件 その3
第75回:アラン・ピンカートン登場
第76回:ピンカートン探偵社


■更新予定日:毎週木曜日

第77回:ピンカートンの切り札〜チャールス・シリンゴ

更新日2008/05/01

チャールス・シリンゴ(Charles Siringo)が西部一帯にその名を知られるようになったのは、アイダホ州の炭鉱のストライキに関連してからだ。炭鉱の持ち主からの要請で、ピンカートンはシリンゴを炭鉱夫の組合いにもぐりこませ、スト破りをやったのだ。

大枚をはたいてピンカートンに仕事を頼むことができるのは大資本だけだ。シリンゴは炭鉱夫として組合内部に入り込み、組合幹部にまでなり、組合幹部が組織したサボタージュの実態を明らかにしたのだった。見つかれば当然虐殺されてもおかしくない、非常に危険な仕事であり、しかもスパイ、囮作戦は組合側にしてみれば裏切り行為なので、その後、生涯命を付け狙われることにもなるのだ。

シリンゴの証言で18人の組合幹部に有罪判決が下った。シリンゴは覆面捜査が巧みで、ピンカートンで一番高い給料をとる捜査官になった。だが、裁判の過程で顔が知れ渡ってしまい、覆面捜査官として敵対陣営に潜り込むのが難しくなってきた。それでもシリンゴ自身は、カウボーイ捜査官として荒野を駆け巡ることを望んでいたようだ。

ワイルドバンチ追跡にシリンゴが乗り出したとき、彼は相棒にサイレス(W.O. Sayles)一人だけを選び同行させた。今までのような大人数で大掛りなマンハント追跡は、ドラを打ち鳴らしながら逮捕に赴くようなものだ、そんな追跡団は往々にして個々としての恐怖と弱さの集まりであり、捜査の邪魔になるだけだ、一つの強い意思を持ってワイルドバンチを追い詰めるだけが唯一のやり方だとシリンゴは確信していたのだろう。

追跡者は常に逆襲される立場にあり、待ち伏せにあったり、キャンプ地で寝ているときに撃たれる危険性が高い。相手は命知らずのワイルドバンチであり、下手に追い詰めると、どんな手を打ってくるか予測不能な相手なのだ。

シリンゴの追跡のやり方は、西部劇に出てくるようなハデさは微塵もなく、足跡を読み取るスペシャリストのインディアンを使ったり、馬を飛ばし相手に迫るようなことは一切していない。まさに牛歩戦術のようにゆっくりと一つひとつの足跡を確かめ、近隣の牧場で情報を集め、目撃者を探し、相手が何名いて何頭の馬を持っているか、武器は何か、食料、水はどの程度持っているかなどを総合し、地道に一歩一歩詰め、あせることはしないかわりに決してあきらめないのだ。

また、自分たちの行動を極めて密かに、静かに起こし、土煙を決してあげない、安全な岩陰を進む、身を隠す場所がないときには日中休み、夜間に追跡を開始するなど、追われる者がシリンゴの存在を知ることができないやり方で追い詰めるのだ。

ウィルコック列車強盗事件から2週間も経ってからシリンゴは追跡を開始したが、誰よりも的確にブッチたちの逃走ルートを辿って行った。シリンゴはハンクスビルからモンティチェロへ、そしてロバーズ・ルースト(盗賊の砦)へ踏み込んで行った。

迷路のように入り組んだ深い谷が縦横に走るロバーズ・ルーストにも水場が何箇所かあり、そこに小さな牧場もあった。牧場主はもちろんブッチらワイルドバンチのサポーターではあったが、ひとシゴトの後で嵐のように訪れ、散財してくれるワイルドバンチを歓迎した時代は去り、細々とではあるにしろ安定した牧畜を望みはじめた時期なっていた。そんな牧場で育ったパール・ベイカーが彼女の父親、祖父から聞いた話を書き残している("Robbers Roust"by Pearl Baker)。また彼女は、牧場経営のかたわらワイルドバンチの研究を行い、ユニークな本も書いている。

シリンゴはそんな牧場主から聞き込みを続け、ロバーズ・ルーストの奥深く分け入ったが、途中で食料補給のため同行のサイレスをハンクスビルに送っている。その地点がワイルドバンチがキャンプしていたところから、3マイルと離れていなかった……と後日判明するのだが、追う方も追われる方も全く気付いていなかった。

ロバーズ・ルーストで両者が鉢合わせしていたなら、西部の歴史とは言わないが、ワイルドバンチとローマンの歴史は変わっていただろうとよく言われる。だが、シリンゴがワイルドバンチを先に視野にとらえたとしても、それまでの彼のやり方を見ていると、直接攻撃に出るようなことはしなかったと思う。

自分が絶対有利な立場になって初めて行動を起こすのが彼の常道だったから、サイレスを待ち、相手に気付かれないように監視を続け、夜襲をかけた可能性は残る。しかし、ワイルドバンチの面々も常に見張りを立てていたから、そう易々と捕まりはしなかっただろう。おまけにこの界隈の抜け道を知り尽くしている彼らのことだ、正面きっての撃ち合いを避け、逃げたことだろう。

多くの好き者はこのたった3マイルの距離の"モシ"に大きな物語を見ているが、私は3マイルに重きを置かない。と言うのはロバーズ・ルーストに実際足を踏み入れてみれば分かることだが、平地や山腹の3マイルと違い、ロバーズ・ルーストでは曲がりくねった峡谷が延々と網の目のように広がっておリ、馬を進めることができるのは両サイドを切り立った崖に遮られた狭く乾いた川底だけで、視界が20メートルも利かない急なカーブがそこここにあるからだ。ロバーズ・ルーストの3マイルは平地の30マイルにも相当すると言ってよい。

私が住んでいるユタ州の州境に近いコロラド州の町は、ちょっと強い風が吹くと、町のある谷全体がベージュの塵に覆われる。ユタの砂漠から大量の砂塵が舞ってくるのだ。シリンゴもロバーズ・ルーストでそんな砂嵐に遭い、視界を奪われ、同時にすべての生き物の足跡をかき消され、一週間後にロバーズ・ルーストでの追跡をあきらめて引き返した。

だが、彼はあきらめたわけではなかった。シリンゴは帰り道に集めた証言、何頭の馬を連れていたか、長距離用の装備をしていたかなどから、ワイルドバンチはロバーズ・ルーストに留まらず、そこを抜け、南下するつもりだと読んだのだ。

彼の判断は正しかった。
シリンゴは馬を連れ、列車でアリゾナ州へ向かったのだ。

-つづく

 

 

第78回:静かなる男_エルジー・レイ


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