第80回:アウトローからの更生への道
更新日2008/05/22
フォルサム列車強盗の失敗は、たとえブッチが関与していないにしろ、気に入っていたWS牧場の生活を捨てなければならない状況に彼を陥れた。WS牧場からニ人のワイルドバンチメンバー、エルジー・レイとハービー・ローガンがお尋ね者となり、エルジーは捕まり終身刑になったのだ。
WS牧場のフレンチの元にシェリフが訪れ、同時にピンカートンのシリンゴもアルマの村の酒場、雑貨屋などを嗅ぎまわり始めた。ブッチは独自の回路で情報を集めていたのだろう、酒場の主やバーテンダーたちから、「盛んにお前のことを探っているイヌがいるぞ」と忠告を受けるまでもなく、自分の置かれた状況を掴んでいた。
シェリフらがエルジーとハービーだけでなく、ブッチの写真を持って身元確認にフレンチの元に来たことをブッチに知らせた時にも、ブッチがあまりに平静に聞き流し、全く心配した様子を見せなかったことに、むしろフレンチの方が驚いている。
ブッチは、すでにWS牧場が安全な隠れ家でなくなったこと、偽名のジム・ローブは割れてしまったこと、フォルサム列車強盗に自分も絡んでいると思われていること、追っ手は少人数なので直接逮捕に乗り出さず、ピンカートンと連携し大掛りな軍団を組織してからWS牧場に繰り出してくるであろうことなどを正確に読んでいたのだろう。
牧場主のフレンチは、官憲に協力するどころか彼らの訪問をブッチに告げたくらいだから、余程ブッチに魅せられていたに違いない。
ブッチは急ぐでもなく、却ってフレンチの方が心配するほどゆっくりと日数をかけて、彼が去った後のWS牧場の管理を手配し、フレンチに事細かに報告し、忠告を与え、WS牧場を去った。
その時、フレンチはお礼の記念に何か欲しいものはないかと尋ねたところ、ブッチは皮のサドルバッグだけを所望した。人を魅了せずにおかない笑顔でブッチは、「次の強盗でかっぱらったお金を入れるのに必要なんでね」と言い残したと、フレンチの回顧録にある。フレンチは最高の馬をブッチプレゼントするつもりだったが、ブッチが要求したのは使い古したごくありきたりの赤皮のサドルバッグだったのだ。
それがフレンチとブッチの最後の別れだった。その後、フレンチはとんでもない大物を自分の牧場で使っていたことを知ることになるのだが…。
ブッチは行きがけの駄賃に、ちょっとしたイタズラなサービスをしている。
フレンチは隣のアシュビー(Ashby)牧場と放牧馬をめぐっていざこざに巻き込まれていた。アシュビー牧場との確執は、ブッチがWS牧場にやって来る前からの因縁で、フレンチを悩ませてきた大きな問題だった。
ブッチはフレンチへの"お礼"の意味を込めて、アシュビー牧場の乗馬用にブレイクされた馬のすべてを広大なフリーレンジ(共有地、公共の放牧地)へ追い散らしたのだ。そのフリーレンジは、アパッチ・インディアンの居住地区と入り組んでおり、アパッチが小躍りしてそれらの馬を自分たちの物にするであろうと予想してのことだった。
まさに怒髪天を突くアシュビーは、アルマの村のシェリフの元まで歩いて行かなければならなかった。
アシュビーは、フレンチとブッチ、それに居残った牧童たちを訴えたが、彼らが馬を盗んだり転売したわけではないし、またその証拠もなく、1900年の4月28日、フレンチ牧場の面々に無罪の判決が下だり、その判決文が残っている。
ユタ州で最も優れ、尊敬されている判事、パウアー(Orland W. Power 弁護士時代、マット・ワーナーの弁護をしている)のソルトレイクシティー事務所に農夫の着るつなぎの作業服にブルージーンズのうわっぱりを着て、つぶれた帽子を両手に握った男が訪れた。
ひょっこり訪れたその男こそ、ブッチ・キャサディーだった。
ブッチはその時、32歳、朋友エルジー・レイは終身刑、ボブ・ミーカーは35年の刑、ジョージ・カリーは殺され、アウトローの聖域だったワイオミング州のホールインザウォール、ユタ州のブラウンズパークとロバーズ・ルーストにも捜査の手が入り出し、安全な隠れ家はこの大西部にさえなくなり、時代はもはやアウトローが荒野を駆け巡ることを許さなくなっていたことを実感したのだろう。
農夫スタイルのブッチとの会見の模様をパウワーが書き残している。
…-つづく
第81回:アウトローからの更生への道 その2

