■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]



第1回:いかにして西部劇狂になったか
第2回:ラストシーンで主人公が2人とも死ぬ西部劇
第3回:Butch Cassidy(ブッチ・キャサディ)
第4回:Butch Cassidy その2
第5回:Butch Cassidy その3
第6回:Butch Cassidy その4
第7回:Butch Cassidy その5
第8回:Butch Cassidy 少年時代
第9回:Butch Cassidy 法との係わり合い
第10回:Butch Cassidy 運命の出会い
第11回:Butch Cassidy 開拓時代の西部事情
第12回:Butch Cassidy 旅立ち
第13回:Butch Cassidy 泥棒砦
第14回:Butch Cassidy テリュライド
第15回:Butch Cassidy モンテローズ
第16回:Butch Cassidy_マットとの出会い
第17回:Butch Cassidy_マットとの出会い その2
第18回:Butch Cassidy_空白時代の伝説
第19回:Butch Cassidy_テリュライド、サンミゲル銀行
第20回:Butch Cassidy_テリュライド、サンミゲル銀行 その2
第21回:Butch Cassidy_代理保安官たちの追
第22回:Butch Cassidy_ナゾの第4の男
第23回:Butch Cassidy_モアブの渡し
第24回:Butch Cassidy_ブラウンズパーク
第25回:Butch Cassidy_追う者と追われる者
第26回:Butch Cassidy_ブラウンズパーク、バセット牧場
第27回:Butch Cassidy_ワイオミング
第28回:Butch Cassidy_流浪
第29回:Butch Cassidy_ジョンソンカウンティー
第30回:少し長めの蛇足_ジョンソン郡の戦争 その1
第31回:少し長めの蛇足_ジョンソン郡の戦争 その2
第32回:少し長めの蛇足_ジョンソン郡の戦争 その3
第33回:Butch Cassidy_ブッチ誕生
第34回:Butch Cassidy_ブッチとアルの逮捕
第35回:Butch Cassidy_ブッチとアルの保釈
第36回:Butch Cassidy_ブッチとアルの裁判


■更新予定日:毎週木曜日

第37回:Butch Cassidy_護送前夜

更新日2007/07/05


ここで、どうしてアルが無罪になり、ブッチだけが有罪になったのか疑問が残る。ブッチの弁護士ダグとアルの弁護士C.F.ラスボーン(Rathbone)の力量の差だけでは納得できない部分が残るのだ。公判の正式な文書での記録には載っていないが、アルの弁護士ラスボーンと裁判官の間で、何らかの取引があったのではないかというのが、一般的な見方だ。

現在でもそうだが、当時の裁判ではディール(取引)が盛んに行われていた。泥棒仲間の名前や所在を明かせば、本人は自由の身となるとか、刑が半減されるという取引が平然と行われていた。本命のブッチさえ確実に有罪にし、見せしめにすれば、小者のアルは無罪にしてしても良いと判事が判断したのだろう。

馬泥棒共同経営者のアルは、一度目と二度目の裁判の間、急激にブッチから離れていき、無罪の判決後、アルはブッチの仲間からの復讐を恐れて身を隠したのだろうか、その後、アルの足跡は掻き消えてしまい、消息をたどることはできなくなった。

この"5ドルの馬の裁判"全体が、非常に不備なものだ。公判記録が残っておらず、ただ判決のみが記載されているので、詳細を検討することはできないにしろ、素人の私が見てもズサンなものだ。確かにブッチとアルは馬や牛泥棒に従事していたが、裁かれた犯行に関してはシロだと言ってよい。

また、判決も当時のワイオミング州の法律では、陪審員が窃盗の被害額を特定するようなことは許されず、裁判官が盗品の価値を査定し、それを陪審員が受け入れるだけだった。しかも盗難馬の価格を査定した基準が全く提出されていない。この査定額を問題にするのは条項4988では25ドル以下の小額の窃盗対象になり、ここでブッチに適応している条項4984は、26ドル以上の窃盗を当てはめるからだ。

もし、馬の査定価格が5ドルなら、条項4988を適応しなければならないが、裁判官ナイトは条項4984を陪審員に示唆し、刑期もそれに基づいているのだ。少し話が込み入ってしまったが、このような法手続き上の不備があるのは当時の裁判で珍しいことではなかった。弁護士ダグ・プレストンがそこを突いて再判に持ち込むことは可能だったし、無罪を勝ち取ることもできたはずだ。ともあれブッチは充分な物的証拠もないまま起訴された件においては、無実の罪を被ったのだった。 もっともそれ以上の窃盗、盗品売買を起訴された何十倍のスケールで行ってはいたのだが。

時代は移り変わり、大牧場主連合が政治的な力を持ち始めていた。ブッチが裁判に関わっている間に、牛馬泥棒がおいしい汁を吸う時代ではなくなったのだ。蛇足として前述した"ジョンソン郡の戦争"として名高い大地主連合と、小牧場主の戦いは、連合がテキサスから50人のガンマンを列車で運び込み、ジョンソン郡のKC牧場のキャビンに立て篭もったネイト(Nate Champion)、 ルーベン(Rueben Nick Ray)をキャビンごと焼き殺すことで決着をつけたのだった。とても"戦争"と呼べる戦いではなく、虐殺だった。ブッチが裁判沙汰に明け暮れていた時期に、牛馬泥棒の天国と言われたワイオミング州は大きな変化を遂げていたのだ。

たとえ裁判の法的不備を突いて再判に持ち込んだところで、大牧場主連合もワイオミング州政府も、見せしめとして誰かを罰する必要があった。それが、名の知れた人物ならそれだけ宣伝効果が大きいのだ。叩けばホコリが舞い上がるブッチはどう転んでもムショ送りになったことだろう。

逮捕から2年目で判決が下り、ブッチはララミーの刑務所に送られることになったのだ。

ランダーの町から刑務所へ向かう前日、ブッチは一晩外出の許可を求めている。拘置所の責任者が判断しきれず、郡のシェリフの長ベン(Ben Sheldon)にお伺いを立てたところ、ベンは"ブッチが朝までに戻ってくるというなら、必ず言った通りにする"と、一晩の自由を与えている。ブッチはランダー界隈の役人にまで好かれていたし、裁判でブッチをスケープゴートとして祭り上げられたことに対して同情も買っていたのだろう。

その晩、ブッチはなんと、シンプソン家を訪れているのだ。自分を罪に陥れたウイルを殺すためではなく、家族同様にいつも暖かくブッチを迎えてくれたシンプソンの家族にお別れをするために。とりわけ母親のマーガレットと娘アイーダは特別ブッチが好きだった。自分の息子ウイルがブッチを有罪判決に導き、刑務所送りにしたことをマーガレットだけでなく、シンプソン家では誰もが生涯ウイルを許さなかったと、ウイルの姪ドロシー(Dorothy Hubberd)がブッチの妹ルラ宛ての手紙に書いている。


護送用の馬車。鉄のフレームに板を張り付けてある。

翌日、夜明け前にランダーの拘置所に帰ってきたブッチは、5人の受刑者と共にランダーから護送用の馬車でローリンズまで運ばれ、そこから列車でララミーへ送られたのだった。

1894年7月15日のことだった。

-つづく

 

 

第38回:Butch Cassidy_ララミー刑務所


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