■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4


■更新予定日:毎週木曜日

第58回:ブッチのエピソード

更新日2007/11/29


アウトローだけでなくローマン(シェリフなど法を守り、取り締まる側)の間でも語り草になるほど、舌を巻く鮮やかさでキャッスル・ゲイトの強盗を成功させたブッチとエルジーは1897年の春から夏にかけて、ユタ州南部のロバーズ・ルーストに一旦身を潜めた。

そのときのエピソードをブッチの一番下の妹ルーラ・パーカー・べテンソンが"Butch Cassidy, My Brother"で紹介している。ルーラの言動、著作はどこまでが事実でどこから史実をはなれ、彼女だけが信じている心の中だけの真実なのか、区別を付けにくいところがある。それでも、この本の中には家族として、彼女だけが知り得ることも多く、また妹としての立場を活かし、ブッチに関係した沢山の人と文通し、文献を収集している。ルーラは1970年9月28日にエンダ・ロビンソンにインタビューし、テープに録音し、そこから書き取ったものの中にある一つの逸話を紹介する。


ブッチの一番下の妹ルーラ・パーカの墓。 
墓地はブッチが育ったサークルビルの西側に連なる
サーシャー連山の麓にある。


サークルビルに初めてモルモン教徒が入植してから、
今までの村の歴史のすべて埋まっているような墓地だ。

ある日、ブッチは川沿いで(ダーティ・デビル・リバーだと思われる)泣きそびれている女性に出会った。彼女はフレッド・ノイェス夫人と名乗った。ブッチが尋ねたところ、彼女は借金を払えず、抵当に入っている農地を取り上げられる、その最終日が今日だという顛末を語った。借金の残額は500ドルとのことであった。

銀行と結びついた大地主が旱魃などの災害のあとで、自作農がようよう開墾し終わった牧地を馬鹿安値で買い叩いたり、借金のカタに取り上げるのは中西部でよくあることだった。資金のない開拓農家は一度の災害には持ち堪えられても、不作が2、3年続くと持ち堪えられなかったのだ。

ブッチはサドルバッグから現金500ドルを取り出し、その債権者が来たら500ドル支払い、確かに領収書をもらうこと、お金の出所は一切言う必要がないことなどなど言い含め、そこを去った。

農地を取り損ねはしたが、ともかく500ドルを懐にした債権者は帰り道に覆面強盗に襲われ、現金500ドル盗まれたのだ。彼が持っていた他の現金、ピストル、馬具、馬などには一切手をつけず、たった今受け取ったばかりの500ドルだけ取られたのだ。もちろんブッチの仕業である。というのがブッチの妹ルーラがエドナから聞き書したオハナシである。

いかにもブッチらしい逸話だ。通りすがりの人の哀れな話を即信用し、大金をポンと用立てたこと(その時点でブッチは500ドルを取り返すプランを立てていたことだろう)、また、ノイェス夫人に領収書のことなど的確な指示を与えたこと、自ら即断した計画をいとも簡単に実行したこと、加えてそのことを他の誰にも語らなかったこと、などなどブッチならではと唸らせる小話だ。もっとも債権者側から見れば、シャイロック的悲劇ではあるのだが。

とかく身内が書いた伝承は、対象を客観視せず美化する傾向がある。著者との血の繋がりと愛着がそうさせるのは当然の成り行きだともいえる。私はこの逸話を読んだとき、"また、創作されたブッチ伝説か"と思ったものだ。ところが、緻密な歴史家(もちろん私ではない)は一見つまらない逸話の裏付けをも一々取るのだ。


この逸話の舞台になったハンクスビル。
ゴーストタウン一歩手前の町だ。
ハイウェイ24号線と95号線が交差する地点なので、
かろうじてという感じで、ガソリンスタンドやモーテルが
2、3軒夏場に店を開けるだけだ。

フレッド・ノイェス(Fred Noyes)は実在の人物であり、土地の登記簿からハンクスビルの郊外に牧場を持っていたことが分かり、加えてノイェス一家はルーラが語っている逸話と時期を同じくして、土地の所有権を得ているのだ。したがってこのできすぎた逸話を信用してもよさそうだ。

ルーラにこの逸話を語ったエドナは、当時、ハンクスビルでホテルを営んでいたチャーリー・ギブソンの娘で、父親チャーリーは、西部パイオニア時代のユタ州の貴重な写真のコレクションを所有している。ある夜、コヨーテが鶏を狙ってやってきたとき、ブッチは気軽にこれを使いなと、自分の銃をチャーリーに貸し、ブッチの銃でコヨーテを撃ったことを語っている。

他人に自分のピストルを貸すことは、侍の刀(カタナ)ほどでないにしろ、まずしないことだ。よほど信用しきった人の間でしかピストルの貸し借りはしない。それをブッチはペンでも貸すように使わせてくれた…というのが、チャーリー生涯の自慢話になったと娘のエドナは言っている。

ブッチは、いかなる意味においても西部のロビンフッドではない。友達マット・ワーナーの弁護料をひねり出すためにモンペリエーの銀行を襲ったが、他はすべて自分の懐のためだ。ギャンブルにのめり込むわけでなし、サロンバーに入り浸ってアルコール漬けになるわけでもない、何のためにそんな大金が必要だったのか、分からないところがある。それはエルジー・レイにも共通している。

ともあれ、ブッチが貧しい人のために義賊を働いた事実はないが、フレッド・ノイェスの事件のような小さな人助けをした逸話には事欠かない。ブッチに出会った人は、皆が皆、彼の人懐っこい魅力に取り付かれている。この底抜けに明るく、優しさに溢れたアウトローは周りの人々を魅了するものを持っていた。それが貧しい牧夫であれ、アウトロー仲間であれ、保安官であれ、ブッチを悪く言う者はまずいないことでも分かる。

偏執狂的な殺人者ジェッシー・ジェイムスや人を殺すことをなんとも思わなかったビリー・ザ・キッド、屈折した心理を持ったワイアット・アープ、ドグ・ホリデーなどと一線を画し、生涯人を殺めることなくアウトローを続けるという奇跡をなしえたのもブッチの持って生まれたそんな性格によるところが大きいのでは…と思っている。

-つづく

 

 

第59回:ブッチのエピソード その2


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