■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]




第1回〜第50回までのバックナンバー

第51回:Butch Cassidy_キャスル・ゲイト その2
第52回:一つの鮮やかな成功は常にモノマネザルを呼ぶ
第53回:ミーカー銀行強盗の怪
第54回:マッカテ ィー一族 その1
第55回:マッカティー一族 その2
第56回:マッカティー一族 その3
第57回:マッカティー一族 その4
第58回:ブッチのエピソード


■更新予定日:毎週木曜日

第59回:ブッチのエピソード その2

更新日2007/12/06


キャスルゲイト襲撃後、ブッチはユタの南、ロバーズ・ルースト(盗賊どもの砦)に身を隠した。ブッチはルーストのホースシュウ・キャニオンにテントを張り、うまくいった仕事の余韻を陽気に楽しみ、仲間に大判振る舞いをしたりしていた。時折、ハンクスビルへ自分自身、買い物と情報収集に出かけていたようだが、買出しに人を行かせることが多かった。大量のウイスキー、銃弾を買占めと呼んでもよいくらいの規模で大量買いをしている。ハンクスビルの在庫が底を尽き、グリーンリバーまでも買出しに出かけている。


手前を流れるダーティ・デビル川とヘンリーマウンテン。
夏は馬鹿暑く、冬は異常に寒くなるこの地帯に
ロバーズ・ルースト(盗賊どもの砦)がある。

貧しい開拓部落の人を相手に商売をしている雑貨屋は、そんな大量買いの、しかも金貨で払ってくれるお客が来ると、"アウトローが一仕事やっつけたな"と推測するのに、たいした想像力を働かせる必要はなかった。

ハンクスビル、グリーンリバーの雑貨屋の棚から銃弾の在庫が消えたことさえある。これは、近隣のシェリフや賞金稼ぎに対するブッチ特有の一種のデモンストレーションで、"俺たちは、これだけの弾丸を買い込んで備えているのだ。みだりにロバーズ・ルーストに足を踏み込めば、どういうことになるかは分かっているだろうな"というわけだ。


グリーンリバーの町は文字通り、グリーンリバー沿いにある。


川は下ってコロラド川と合流し、カリフォルニア湾に注ぐ。
グリーンリバーの町は、今、スイカとメロンの
名産地として 知られているだけだ。

ロバーズ・ルーストでの娯楽は、ポーカー、射撃訓練と射撃大会、競馬、ウイスキーしかなかった。ブッチは退屈から起こる諍いを抑え、アウトローたちをうまくまとめていたようだ。時に羽目を外し過ぎた仲間と厳然と対決することもあった。

ハリー・オグデン(Harry Ogden)は、15歳の時の思い出を語っている。1898年、ハリーは牧童として働き、貯めたお金でやっと自分の馬とサドルなどの装備を買った。きっと喜び勇んで毎日遠乗りをしていたのだろう。

そんなある日、疲れた馬に跨った見るからにアウトロー風の男に出会い、ハリーはあっさりとなけなしの馬と馬具一式をその男に盗られてしまったのだ。それから3週間後、3人の男がハリーの働いている牧場にやってきた。そのうちの一人はブッチで、もう一人はハリーから馬を取り上げたアウトローだった。

ブッチは、この男がお前の馬を盗んだのか、これはお前の馬かと尋ね、ハリー少年がそうだと答えると、ブッチはその馬泥棒に馬をハリーに返し、歩いて帰れと命じたのだ。

ハリーは、ブッチの最後の言葉をよく覚えていた。「少年にそんな扱いをするような奴に、ここに居てもらう場所はない」と言い捨てたのだった。大泥棒、こそ泥を叱る図式になってしまうとも取れるが、ここらが、ブッチに出会った人間にたまらない魅力なのだろう。

ロバーズ・ルーストに居を構えたとはいっても、ブッチはある時は一人で、ある時は徒党を組んで盛んに旅をしている。ワイオミングのコロラド州境近くの町バッグス(Baggs)でのランチキ騒ぎは語り草になり、町の老人たちはその騒ぎを忘れることができなかった。

古老たちはアウトロー・トレイルの著者チャールズ・ケリー(Charles Kelly)にその時の模様を語っている。1897年7月29日、ブッチはルーストやワイオミングのホール・イン・ザ・ウォール・ギャング団と町に乗り込み、西部劇さながらに、叫びながらピストルを空に向けて撃ちまくり、酔っ払って騒ぎまくり、サロンバーは弾の穴だらけになった。ブッチは酒場での支払いをするときに、その銃弾の穴一箇所に一ドルづつ、しかも銀貨で払ったのだ。もちろん酒場の主は、そのお金でサロンバーを新築できるほど大儲けをした。

もう一つ、後に判事となったデヴィッド・トマス(David G. Thomas)がまだ駆け出しのシェリフだった頃の思い出話をしている。彼が判事だったということもあるが、自分の名誉にならない失敗談なので信用してもよさそうな話だ。

若く野心的な、しかし尻の青いシェリフだったデヴィッドは、この町、ロックスプリングにアウトローたちが着たら必ず捕まえてやると決心していた。従来ならアウトローたちがやってきても、1日や2日酒場で散財するだけだし、地元で面倒を起こさずに、すぐに町から出て行ってくれさえすれば、町のシェリフも目をつぶるのが慣わしだった。

町のサロンにブッチたちが来たとの通報を得たデヴィッドは、単身そこへ乗り込み、いきなりブッチの背中のあばら骨に拳銃を突きつけたのだ。

驚いたのはブッチの方だった。彼にそんなことをする勇気のあるシェリフがこの町に居るとは夢にも思っていなかったに違いない。ブッチはニッコリと微笑み"どうやらお前の勝ちのようだ。これから長いこと監獄で酒が飲めなくなるので、最後の一杯を許してもらえないだろうか、仲間にもお前にも、この一杯は俺のおごりだ"とごく自然な調子で語りかけ、デイビッドがそれを許すと、バーテンダーはバーに居た全員のグラスにナミナミとウイスキーを注いだ。"乾杯"と皆がグラスを持ち上げ、シェリフのデイビッドも空いた手でグラスを持ち上げたとき隙が生まれた。

ブッチはデイビッドのピストルを払いざま自分の拳銃を抜き、デイビッドに突きつけたのだ。デイビッドはガンベルトをはずされ、ブッチが"最後の一杯はお前が払いな"と言い捨て、町を去るのを見送ったのだ。

デイビッド・トマスは、ロック・スプリングの町の判事となり1935年に死んだ。

-つづく

 

 

第60回:The Sundance Kid(サンダンス・キッズ) その1


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