■フロンティア時代のアンチヒーローたち 〜西部アウトロー列伝



佐野 草介
(さの そうすけ)



海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■貿易風の吹く島から
〜カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]


第1回:いかにして西部劇狂になったか
第2回:ラストシーンで主人公が2人とも死ぬ西部劇
第3回:Butch Cassidy(ブッチ・キャサディ)
第4回:Butch Cassidy その2
第5回:Butch Cassidy その3
第6回:Butch Cassidy その4
第7回:Butch Cassidy その5
第8回:Butch Cassidy 少年時代
第9回:Butch Cassidy 法との係わり合い

■更新予定日:毎週木曜日

第10回:Butch Cassidy 運命の出会い

更新日2006/12/14


ここに妙な男が登場する。

ブッチの雇われ先のマーシャル牧場でブッチと一緒にいたというだけの事実で歴史にその名を残し、広く知られることになったマイク・キャサディ(Mike Cassidy)である。

1882年か83年(ブッチ、16歳か17歳のとき)の夏、ブッチは二人の弟と共に母親が働いているマーシャル牧場の牧童になった。マーシャル牧場はサークルヴィルの南、セイヴァー川の狭い峡谷を8マイル南に遡ったところに拓けた盆地にあり、週末に馬で実家に帰ることもできる距離にある。また群の首府パングイッチも近い(Garfield County, Panguitch)。

当時、腕の良い流れ者カウボーイはどこでも簡単に仕事にありつくことができた。いわばカウボーイの売り手市場だった。雇い主も自分の牧場で悪事を働かない限り、前歴を問わずに雇い入れた。マイクはブロンコをブレイクし、調教する腕が優れている上、牛の扱いにも長けていたのでジム・マーシャル(Jim Marshall)は出入りの激しいカウボーイの一人としてマイクを雇い入れた。


マーシャル牧場にはブッチの名を
思い出させる建物は何も残っていない。
セイヴァー川沿いだけがこのような緑に恵まれている。

牧童の最年少者はいつも雑用、それも誰もやりたがらない仕事ばかり押し付けられるものだが、ブッチは"疲れ知らず"と呼ばれるほどそんな仕事をこなしていたが、そんな雑用ばかりに飽き足らないブッチの前にマイクが現れたのだ。恐らくマイクはブッチより2、3歳年上なだけだったが、その広く深いカウボーイとしての経験の量はブッチを魅了した。

マイクの自由な生き方、ブッチが想像したこともない遠い町や国を流れ歩く生き方に心を奪われ、マイクの馬や牛の扱う技量、知識に圧倒された。マイクはすべてにおいて百日の長があった。ブッチは今まで自分が生きてきた世界の狭さを痛感し、全く違う生き方があることを知り、自分もマイクのように生きてみたいと思ったに違いない。マイクはモルモンボーイ、ブッチの目を開いたのだった。ブッチとマイクは出会ってすぐに師弟のように、あるいは旧友のように連れ添うようになった。

マイクはブッチの馬の扱いに天性の素質があることを見抜き、自分の言うことを吸い取り紙のように素直にかつ即座に面白いように吸収していくブッチに、カウボーイとして必要なすべてを教え込んでいったのだろう。ブッチは理想的な生徒だった。マイクはブッチの精神的な師匠となったという研究者もいるほどだ。後にブッチはマイクの姓をそのまま受け継ぎキャサディ"Cassidy"と名乗ることになる。

この師匠のマイクは牛、馬の扱いの博士号を与えてもよいほどの知識と技術を持っていたが、それだけではなく牛や馬の泥棒技術にも長けていた。そのテクニックも余すことなく補習講としてブッチに伝授したと思われる。

講座は、まだ焼印が押されていない若い牛をいかに親牛から離し、自分のブランド(焼印)を押すか、いかに素早く牛を殺し、肉にし売りさばくか、放牧牛を移動させるときいかに周囲の牛を巻き込み一緒に連れ去るか、所有検証や売買契約書をいかに偽造するか、盗んだ牛をよい値段で誰にどのように売りさばくか、盗んだ牛や馬をどこにどのように移動させ、隠すかなどからなり、課外活動として、拳銃、ライフルの扱い方、射撃訓練、早打ち訓練、またいかにシェリフ(保安官)などの追跡をかわすかなども教わったのだった。

マイクがマーシャル牧場に居た期間は一シーズンだったが、その間優秀な生徒は師匠からすべてを吸収したのだった。マイクの方は馬泥棒の前科で官憲が迫ってきているのを知り、恐らくはメキシコに逃げたと思われる。


セイヴァー川流域から一歩離れると
このような荒涼とした風景が広がる。
残念ながらマイクの写真は残っていない。

マイクがマーシャル牧場を去るときブッチは一緒に連れて行くよう懇願したが、マイクはブッチの中に人を信じやすい善良さを見て取り、「これから、俺の行くところはお前のようなお人好しのガキが棲めるようなところではない」と兄貴分らしい訓示を垂れ(*1)、アウトローの歴史から消え去ったのだ。数年後にブッチの方がワイルドバンチの親玉にのしあがるとは想像だにしなかったに違いない。

マイクは典型的なカウボーイあがりの小者の牛、馬泥棒として終わり、後年彼の姓をブッチが名乗ったことのみで知られる不思議な存在になった。ブッチがキャサディ姓を名乗ったことにブッチの少年期の決定的な運命の出会いがあったことが分かる。もし、マイクと出会いさえしなければ、ブッチはアウトローにならなかっただろうとさえ言う歴史家もいるが、それは意味のない"もし"だろう。

少年ブッチがマイクに対して、いかに強い憧憬を持っていたにしろ、マイクとの出会いは、彼のアウトロー履歴の中で無数にある出会いのひとコマでしかない。キャサディを名乗ったのは、数年後、盗品の馬の売買で捕まり、ララミーの刑務所に入った時で、ブッチは常に家族がお尋ね者の自分を恥じていることを知っており、犯罪者として家族に汚名が降り懸ることを気にし、本名を名乗るに偲びず、昔馬泥棒の手引きをしてくれたマイクの姓思いつくままに騙っただけだと、私はみている。家族に汚名を着せるのでなければ、ブッシュでもクリントンでもどんな姓でも構わなかったのだと思える。

*1:Lila P. Betenson の“Butch Cassidy, My Brother”による。


-つづく

 

 

第11回:Butch Cassidy 開拓時代の西部事情


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