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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 1
 

第2回:大平原の女王、カラミティー・ジェーン その2

更新日2015/08/06

 


モンタナ、ヴァージニア・シティーへ

ジェーン一家が幼子を連れてまで、どうして5ヵ月にも及ぶ過酷な移住を決意したのだろうか、尽きるところ、ミズーリー州の田舎での生活が行き詰っていたからだろう。目的地のヴァージニア・シティーに、金銀が出たという情報に惑わされたのかもしれない。少し想像を働かせれば、債権者から逃れるための逃避行だったのではないか。ともかく、ミズーリー州から逃れたかったのだろう。


1865年のヴァージニア・シティー。丁度、カラミティー・ジェーンが到着した頃の町の様相が見て取れる。彼女が所有権を持ったとされる40エーカーの土地は、異論があり明確ではないが、町から10マイルほど外れた荒地だったと思われる。

モンタナ州のヴァージニア・シティーは、現在、インターステイト・ハイウェイ90号を外れ、278号線を南に約40マイル下ったところにある。シティーなどと呼ぶと大きな"市"を想像するが、アメリカで何々シティーというのは単なる呼び名で、ニューヨーク・シティーも、人口が200~300人足らずの村もシティーと呼ぶことがある。ヴァージニア・シティーは定住者400~500人程度の村だった。

ところが、1863年にヴァージニア・シティーを走るアルダー・クリークに金鉱が見つかり、一挙に金鉱をめぐって無法の町になった。西部で名を馳せたローマン、ヘンリー・パルマーがこの町に秩序をもたらしはしたが、南北戦争勃発で混沌を極め、この促成、急増の鉱山町で1864年の1月14日に5人の南軍派のアウトローを縛り首にしている。

酒乱気味の高名なアウトロー、ジャック・スレイドもこの町で最期を迎えた。ヴァージニア・シティーを即座に出るようにという、退去命令を無視したのを、町の有力者たちが捕まえ、そのまま牧場のゲートに渡された横木に吊るされたのだ。この町に裁判所はなかったから、手の良いリンチだった。

ヴァージニア・シティーは駅馬車の中継基地にもなった。現在、ヴァージニア・シティーはアメリカ西部にごまんとある純然たる西部パイオニアの観光地になり、再建された20軒ばかりのいかにも開拓時代風の家が立ち並び、小さいながらも博物館があり、町の歴史と金山、それに町を行き交ったアウトローたちのプロフィールを見ることができる。


町はずれにある墓地。木の粗末な墓標に、1864年、縛り首で死亡とある。

1865年にカナリー一家は西に向けて旅立った。この幌馬車での移住は最初から無理があった。ミズーリーを出たとき、長女のジェーンが12歳前後だったと思われるが、その下に5人の弟、妹がいたのだ。ということは、一番下の子は乳飲み子かやっと乳離れした歳の赤子だったことになる。案の定、と見下した言い方になるが、予想されたように、幌馬車での長旅の途中で、母親のシャーロットが肺炎で死んだ。そして、途中経由したソルトレイク・シティーで、今度は父親のロバートが死んでしまったのだ。

5ヵ月に及ぶ旅は、ジェーンを後に西部の女として名を馳せることになる第一歩だった。この旅で、ジェーンは父親の右腕となり、馬を乗り回し、ピストルとライフルの扱いを熟知するようになった。長女のジェーンは、父親と一緒に狩りをし、家族の食料を確保したのだ。ジェーン自身、乗馬と射撃、狩猟のセンスがあることを見出し、言ってみればアウトドアやサーバイバルな状況に適している自分を見出したのだ。

乗馬のセンスのあるなしは実際にいろいろな馬に長時間乗ってみないことには分からない。 連れ合いの従妹が12、3歳の時、轡(クツワ)だけをはませただけの裸馬で疾走し、急転換をし、柵を飛び越えたりするのを目にしてあきれたものだ。彼女は自分の小さな体の重心を柔らかい腰でフンワリといつも馬の背の重心線上に置き、馬を自在に操るのだ。彼女よりかなり年上の、もう体ができ上がっている長身のマッチョ兄貴たちも、乗馬だけはチビの妹に敵わないと、半ば敬っていた。5ヵ月に及ぶ幌馬車の西行は、ジェーンが後に優れた斥候になるきっかけを作った。

私自身、射撃の腕は酷いものだが、素潜りで水中銃を使い出し、獲物がそのままその日の食卓に直結するとなると、自分でも驚くほど自然に腕が上がった。幌馬車の旅の食料は、現地調達が基本だったから、鹿や雉、雁、ウサギ、はてはリスまで狩猟の対象になった。ジェーンは大いに射撃狩猟の腕を上げ、乗馬にも熟達したことだろう。貧すればなんとかで、必要に迫られれば、それに対処する術(スベ)を素早く学ぶものだ。

ロバートの死後、すべては13、4歳の長女ジェーンの肩にかかってきた。少女の孤軍奮戦の模様は、彼女自身が書いた自叙伝に頼るしかない。ともかく、モンタナ州のヴァージニア・シティーにたどり着き、40エーカーの土地を得た。これもおかしな話で、当時成人の女性ですら土地の登記ができなかった。ましてや、14歳の子供に開拓地が割り当てられ、所有できるはずはないのだが、誰かが代理人になったのかもしれない。いくら馬に乗るのが巧みで、ライフルの扱いに長けていても、所詮は14歳の小娘なのだ。

日本的な感覚でいくと40エーカー、およそ16ヘクタールというのは広く感じるが、合衆国政府がホームステッド(開拓地を無料で給付していた)として与えた最低単位は、初め700エーカー、その後徐々に縮小して180エーカだったから、40エーカーというのはいかにも小さい。

父親のロバートが申請しさえすれば、無料でもらえるホームステッドを知らなかったのか、ミズーリーの田舎町から逃げるのを異常に急いでいて、ホームステッドを請求する時間がなったのだろうか。ヴァージニア・シティーの土地にしたところで、種を蒔き、農作物を収穫できるような農耕に適した沃土ではなく、どうにか牧畜に使える地味で、2、3エーカーに対し牛一頭飼えるかどうか、牧草が育つかどうかという土地柄だ。40エーカーではせいぜい20頭の牛しか飼えない。自立できる牧場を成り立たせるには、最低で500頭の牛が必要だとされている。

ジェーンが親類を頼って、ヴァージン・シティーからワイオミング州のブリッガー砦に移ったのは賢明だった。どうあがこうが40エーカー足らずの土地で、たとえ男手があったにしても家族6人を食わせることはできなかったろう。ブリッガー砦からは付設されたばかりのユニオン・パシフィック鉄道に乗り、ペディモント(Piedmont、Wyoming)へと移動した。

…つづく

 

 

第3回:大平原の女王、カラミティー・ジェーン その3

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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