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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第4回:カルト・ケイト ~アンチ牧畜男爵的思想の芽生え

更新日2017/06/29

 

合衆国政府のホームステッド・システムは、カルト・ケイトが土地を分け与えられた当時、一応5年以内にその土地を開墾し、何らかの生産を生む土地に転じていなければならなかった。といっても、ケイトが手に入れ登録した土地は、山林や原野の開拓ではなく、緩やかにうねった草原だったから、そのまま放牧できたし、丸太小屋と牛馬を追い込むコラールに柵を回すだけで、ことは済んだ。
 
ケイトは幾ばくかのお金を持っていたのだろう、それとも、ジェイムスが援助したのか160エーカーのうち60エーカーだけぐるりとバラ線ワイヤーのフェンスを回している。テキサスの大牧場の規模には遥かに及ばないが、ワイオミングでも肉牛の需要が高まるにつれ牧場は大型化していき、何千、何万エーカーの牧場を所有する、俗に言うところの“牧畜男爵”が生まれつつあった。

彼らは独占組合的なWSGA(Wyoming Stock Growers Association;ワイオミング牧畜組合)を組織し、政治活動をしやすいシャイアンに豪壮なクラブハウスを構えるに至った。ケイトのような弱小、貧農も牧畜男爵たちも、自分が所有する土地だけで、牛を育てることは不可能で、国有地に放牧し(フリーレンジという)、通常年に2回、ランドアバウトと呼ばれる、放牧牛を集め、柵に追い込み、尻に印された焼印で誰の牛かを判別し、そのれぞれの所有者に分ける仕事を行っていた。

何万、何十万頭という牛を原野、森、山から追い出し、集めるのは勇猛でタフな仕事だった。 その時、大牧場主は何十人という牧童を繰り出すが、小牧場主、貧農はせいぜい家族総出がいいところだった。牛の尻に押された焼印をブランドと言うが(今、日常的に使われている“ブランドもの”の語源になる)、それを見分け、自分のところへ誘導する時に恒常的に悶着が起きた。

牛の悲しい性格で、常に大勢に従うのだ。牛は自分の尻に押された焼印に頓着せず、皆が行く方に付いていくのだ。大牧場主の焼印が押された何万頭の牛の中に弱小、貧農の牛がどうしても混ざってしまうのだ。逆の場合、貧農の焼印を押された100頭、200頭の中に、違う焼印の牛がいれば、すぐに判別できる。したがって、大牧場主は有利な立場にあった。 大牧場主は何万という俺の牛の中に、違う焼印の牛が数頭混じっていただけのことだ…と彼らは考え、その数頭を、あるいは意図的に何十頭の牛をカッパらってしまうのだ。それは貧農にとっては死活問題になる。

放牧してある牛を集め、判別するランドアバウトはいつもトラブルがらみで行われた。その上、ランドアバウトで国有地に放牧されている牛がきれいに100%集められるわけではなく、必ず何十頭かは取り残された。そんな迷い牛を発見して集め、牧場まで持ってくると牧場主は持ち込んで来た者にそれなりの報酬を払い、それが牧童のいい小遣い稼ぎになっていた。 そんな迷い牛を追い込む時には、ランドアバウトと違い、誰も立ち会わないので、早く見つけ、運び込んだ者勝ちだった。ここにも多勢に無勢の理屈がまかり通り、貧農が迷い牛を集め、自分の農園に運び込むと、牛泥棒として告発され、その牛を取り戻すためだけでなく、見せしめとして貧農の牛も持ち出されたり、撃ち殺された。

ケイトが初めからどれほどの社会意識、アンチ牧畜男爵的思想を持っていたか分からない。 おそらく、不幸な一回目の結婚とそれに引き続く赤貧洗う生活で、思想と呼べるようなものは何も持っていなかっただろう。ケイトが陰惨に近い環境にありながら、純朴な性格を大いに残していたと思う。人を信じる力を多分に持っていたと思う。

ジェイムス・アヴェレルと出会い、彼がアンチ牧畜男爵論を展開し、様々な新聞や雑誌に時評を書いたものを読み、そのまま、すんなりと彼を信じたのだろう。その上、ケイトは一度心底から信頼したジェイムスと最後まで信じ切って、先鋒となり“牧畜男爵”と敵対して行った。書物から入った思想ではなく、実生活に根ざした思想は常に強固なものだ。

荒くれ者揃いの西部辺境には、女性が絶対的に不足していたと言う事情もあるが、男どもは馬と女は殺さないという不文律があった。西部劇を観に通っていた昔、子供心にも、的として大きな馬を狙えばコトは簡単なのに…と思ったものだ。だが、馬に跨った人間を撃ち殺すのは良いが、馬を撃つのは卑怯者のすることとされていたようなのだ。それは人の背を撃つのと同じくらい軽蔑される行為だった。

女性を殺すのも同じくらい卑怯者のすることだとされていた。だが、女性殺害は南北戦争の時、平然と、しかも大量に行われていたし、多分に建前としてはそうなのだがという、エセ紳士的低級な精神が西部の男どもにあった。ベラ・スターも背後から射殺された。

ケイトにも悲惨な最期が待っているのだが、もちろん、ジェイムスと結婚したばかりのケイトがそんなことを予測できるはずもない。

-…つづく

 

 

第5回:カルト・ケイト ~大牧場で富を独占していた牧畜男爵

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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