のらり 大好評連載中   
 
■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第9回:カルト・ケイト ~ジェイムスも一緒に連行される

更新日2017/08/03

 

カルト・ケイトはやっと自分が牛泥棒の嫌疑を掛けられていることを悟ったに違いない。だが、この時点でもまだ話せばわかる…と思っていただろうし、まさか自分が吊るされるとは想像していなかっただろう。

馬車の上で、ケイトは正規の売買契約書、登記簿などはローリンズの役所にあるから、一緒に行こう、そうすれば、何もかも分かって貰える…と懇願している。ケイトの女性らしい心情の表れだろうか、ローリンズに行く前にこの野良着をよそ行きの服に取り替えさせて貰いたいとも、頼み込んでいる。

ボスウェルはこれからお前さんが行くところにそんな服なんか必要ない…と答え、静かにしていろ、さもなくば、お前を馬の後ろに繋いだロープで死ぬまで引き摺り回してやると脅している。

一行がジェイムスの店近くまできた時、ジェイムスは丁度荷馬車を小屋から引き出し、出掛けるところだった。カスパーの町に買出しに行くところだったのだ。ジェイムスは彼らのバギーにケイトが乗せられているのを見て、ただならぬ気配を感じ取ったに違いない。それが一番暑い盛り、午後の2時か3時頃のことだった。

ジェイムスは冷静だった。何の権利があって私の妻、ケイトを拘束しているのだと健気に詰問している。逮捕状を持っているのか…と青臭い質問までしているのだ。まだ、ジェイムスは法の力を信じていたのだろう、この西部の辺境で、ましてや牧畜男爵がすべてを牛耳っているワイオミングでは暴力だけがモノを言い、力だけが統治権を持つことを分かっていなかったのだ。いわばインテリの弱さを多分に持っていたのだ。

ボスウェルの答えは明確だった。これが逮捕状だとライフルの銃口をジェイムスに向けたのだ。ジェイムスはケイトの脇に乗せられた。

ジェイムスの店(郵便局も兼ねていた)の前の通りはオレゴントレイルに近く、往来も多いことから、人通りのない、来た道を引き返し、ケイトの牧場の方に向かった。これは、ボスウェル一行が人目に付くのを避けるためだったろう。しかし、こんなパレードは人目に付かないはずはなかった。彼らの意図とは反対に、この行進の目撃者は多い。

ジェイムスのところからケイトの小屋までは、距離にして2.5キロくらいのものだろう。御一行様がケイトの小屋近くを通った時、デコレイとジーン坊やは二人で散り散りになった牛を集め、フェンスを修復し始めていた。

ジェイムスの20歳になる甥っ子、ラルフ・コール(ジェイムスの姉の息子)が春先からジェイムスの元に来ていて、ジェイムスがカスパーへ買出し、仕入れに行って留守の間、店番をしていた。店の窓から、ケイトとジェイムスがバギーに乗せられ、どこかに連行されるのを目撃し、外に飛び出て、一行を追おうとしている。

だが、馬は買出しのために馬車に繋がれたままだったので、まず馬を馬車から外し、その馬に跨り、彼らが向かったボスウェル牧場方向に馬を走らせ、ボスウェル家のドアをノックしているのだ。何が起こっているのか知りたい一心だったのだろう。幸いというか、牧童たちは出払っており、家にも近くにも誰もおらず、ジェイムスの店へと引き返している。

もしそこで、ボスウェルの息子か牧童に出会っていたら、ラルフのような東部からヒョンとやってきた男、しかもジェイムスの甥と分かれば、袋叩きにあっていたことだろう。

ラルフが店の窓からリンチ組を見てから、一度足で追い、引き返し、馬車から馬を外し、それに乗るまで、相当時間を食ってしまったのだ。ラルフは店に帰り、店番を続けるより他なかった。

もう一人、フランク・ブキャナン(B. Frank Buchanan)という、20代の男が偶然からケイト小屋を訪れ、二人の少年から、ボスウェルたちがケイトを連れ去ったことを聞かされた。フランクはケイト、ジェイムスととても仲の良い、かつアンチ牧畜男爵キャンペーンに共鳴している小牧場主だった。フランクはすぐに自分の小屋にとって帰り、ガンベルトに6連発リボルバーを腰に締め、ボスウェル組を追跡している。

もう二人、奇妙な目撃者がいた。二人とも、この界隈のミニコミ誌を発行している、編集者フェッツ(H. B. Fetz)と助手のスピィアー(J. N. Speer)が自分の新聞社の屋根の上からジェイムスがトム・サンのバギーに乗せられ、連行されるのを見ているのだ。だが、この二人はこのことを自分の新聞に書かず、また、茶番ではあったにしろ裁判でも証言もせず、リンチ組の全員が無罪放免になった後の11月2日になってから語っているのだ。この不思議な証言については後で考察する。

フランクは一度ジェイムスの店に寄り、ケイトとジェイムスが連行されたことを確認し、リンチ組の後を全速力で追っている。この時、フランクはもっと幅広く加勢を頼むべきだったかもしれない。だが、実際にそんな悠長な時間はなく、一刻を争う、時計の針と競争するような事態であることをこの若者は良く知っていたのだろう。ボスウェルの陰湿な性格、コーナーの短気な気性、酔うと何をしでかすか分からない連中が寄り集まってケイトとジェイムスを誘拐したのなら、それはリンチに掛けることしか考えられないと読んだのだ。そして、れは正しかった。

-…つづく

 

 

第10回:カルト・ケイト ~大木に吊るされた二人

このコラムの感想を書く

 


佐野 草介
(さの そうすけ)
著者にメールを送る

海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 4
[全7回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 3
[全7回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 2
[全39回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 1
[全39回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part5
[全146回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part4
[全82回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part3
[全43回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part2
[全18回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝
[全151回]

■貿易風の吹く島から
~カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]

バックナンバー
第1回:カルト・ケイト
~カナダ生まれの気骨ある女傑
第2回:カルト・ケイト
~結婚と破綻、そしてワイオミングへ

第3回:カルト・ケイト
~ジェイムス・アヴェレルとの出会い
第4回:カルト・ケイト
~アンチ牧畜男爵的思想の芽生え
第5回:カルト・ケイト
~大牧場で富を独占していた牧畜男爵
第6回:カルト・ケイト
~牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソン

第7回:カルト・ケイト
~仕組まれたリンチ総決起集会
第8回:カルト・ケイト
~牛泥棒と決め付けられリンチへ
 

■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari