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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第10回:カルト・ケイト ~大木に吊るされた二人

更新日2017/08/10

 

フランク・ブキャナンは単身で馬を飛ばした。セイジブッシュだけが生えている乾燥し切った平地をいくらも行かないうちに6人組とバギーに乗せられたケイト、ジェイムスがフランクの視野に入ってきた。6人がバギーを取り囲むように馬を進めており、ケイトとジェイムスがリンチ組と大声で言い争っているのが聞こえる距離にまで近づいている。ここは、後日、フランクが証言しものに基づいて書いている。

セイジブッシュがところどころに生えている道のない荒地をリンチ組は進み、それに取りすがるようにフランクは射程距離に入って行った。リンチ組は初めからケイトとジェイムスを吊るす木を選んであったのだろう。この界隈はクリーク沿いにだけ、大きなコットンウッドが茂り、クリークの水の恩恵を受けない台地とは極端な対象をなしている。

遠くからでも緑のベルトが見え、そこにはクリーク、水が必ずあるのだ。コットンウッドは成長が早く、枝ぶりもいいので大きな日陰をつくり、中西部の農家の周囲に陽除けとして南と西側によく植えられる。

リンチ組みが選んだ木は、スイートリヴァーの川岸に傾いて立っている大木だった。

10s 
この写真はリンチ後2、3日経ってから、フランク・ジェイムソン
(フランク・ブキャナンとは別人)が撮ったもの。
Mokler’s History of Natrona County蔵。
この木は現在枯れ死んではいるが、まだ立っている。

フランク・ブキャナンは6人組へ銃撃戦を開始した。フランクはこの界隈の牧童程度に馬を操りながらの射撃はできたであろうが、修羅場を踏んだガンマンではなかった。ただ、ケイトとジェイムスを救いたい一心でリヴォルバー銃を撃ったのだろう。6人組は即応戦した。この銃撃戦は短かった。フランクが持ってきた弾丸を撃ち尽したからだ。

結果として、ケイトとジェイムスが吊るされた時の目撃者は6人組、加害者だけになってしまった。フランクは助けを求めに村に引き返したのだが、6人組にしてみれば、また邪魔者が来る前に早いとこ吊るしてしまえ…とばかり、大急ぎでケイトとジェイムスの首に縄をかけることになった。

後に6人組が一応逮捕され、供述書を取られ、裁判の記録も残ったのだか、それは死人に口ナシを地で行く記録で、ケイトとジェイムスがどのような最期を迎えたのか、実情は分からない。ただ、ケイトが首に縄を架けられる時、相当抵抗し、暴れたのは彼女の遺体の状況から伺うことができる。 

このような、当時としてもセンセーショナルな事件には、かなり後になってから、“私は見た” “知っている”式の目撃者が現れることが多い。ダン・フィッガー(Dan Fitger)という男がそれで、彼は妻と娘、それに彼の弟と共にネヴァダからここスイートウォーターにやってきて、後にこのナトローナ郡の土地鑑定士を勤めたくらいだから、信用できる経歴の持ち主ではあるのだが、混沌としたワイオミングの状況で、このような事件の真実を明らかにすることは非常に難しい。

その上、この男ダンは異常な政治好きだったから、彼の証言にどのような政治的配慮があったものか見極めがつかないのだ。しかも、何年も経ってから、彼の家族にそれまで沈黙を守っていたダンが告白した…という話をルス・ビーベが聞き出したというのだから、曲解され、脚色される要素は多い。

彼の証言はこうだ。

彼が新種のアルファルファー(牧草の一種)を試しに植えたのをチェックしにシューンメイカーのゲイト牧場で作業をしていたところ、6人組と誘拐された二人を見かけた。そこはトム・サンの所有する悪魔の門“Devil’s Gate”近くで、トムの白い帆をかけたバギーに乗せられた二人が6人組と川の方へ向かっていた。彼はこの夏場、川が干上がっていたので、水量をチックするため、皆うち揃って川面へ降りて行った…と思った。また、彼はフランク・ブキャナンが身を隠すように6人組を追跡していたのも目撃している。

いくらワイルドウエストの最たるワイオミングでも、処刑のような方法で人間を殺すとは彼自身、想像もしていなかったが、同時にボスウェルのイビツナ性格、物事に変質狂的に固執する性格を知っていたから、最悪の事態が起こり得るかもと危惧した。

スイートリヴァーが流れを変え、急にカーブするところに大きなコットンウッドが茂っており、そこに縛り首の木があった。ケイトとジェイムスは何が自分の身に起こるか感じ取っていたのだろう、恐怖に引きつった様相で、抗議し抵抗したが、6人組は耳を貸さず、二人を馬車から引きずり降ろし、首に縄を掛けようとしていたとき、フランク・ブキャナンが銃撃を仕掛けた。それも虚しかったのだが…。

まず、吊るされたのはジェイムスだった。それを見ていたケイトは激しく暴れ、抵抗し始めた。 ケイトの首に縄をかけたのはアーニー・マックレーンだった。ケイトは狂乱状態だった。ジェイムスは吊るされたまま足で空を蹴り続けた。コットンウッドの枝が揺れたほどだった。

ケイトも暴れた。だが所詮無駄な抵抗だった。カウボーイ6人組相手に女一人何ができよう。ケイトもジェイムスと並ぶように吊るされたのだった。

これがダンが家族に伝えた目撃談だ。もちろんダンは裁判で証言していない。

-…つづく

 

 

第11回:カルト・ケイト ~リンチの報道合戦始まる

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第5回:カルト・ケイト
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