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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第14回:カルト・ケイト ~全米に知れ渡ったダブルリンチ事件

更新日2017/09/07

 

『シャイアン・サン』紙は7月25日付けで驚くようなことをやってのけた。同紙のエドワード・スラックが、23日に発行した内容を全面訂正し、文字通り180度引っくり返す報道をしたのだ。スラックのワンマン新聞だからこそ為し得た変身とも取れるが、それにしても2日前の記事を間違いだったとして書き直すのは並みのことではない。

『シャイアン・サン』紙はトップのタイトルに“真実の話”と大きく銘打ち、その下に”目撃者が語る事件の真相“ ”リンチ組のボスウェル、トム・サンら逮捕される“と続く。リンチ組がジェイムスとケイトの二人を連行した模様を的確に述べ、2日前の報道が間違っていたことを認め、目撃者からより詳しい電報を受け取ったことを明記している。そして、シェリフ、ワトソンがリンチ組の首謀者トム・サン、ボスウェルを逮捕し、他のリンチ組の名前をあっさりと吐いたこと、リンチを阻止しようとしたジェイムスの朋友フランク・ブキャナンとの撃ち合いでジョン・ダブリンが尻に被弾したこと、負傷したジョン・ダブリンをサンドクリークのジョンの牧場に運び込んだこと、またボスウェルもトム・サンも、自分が二人をリンチに架けたことを即座に認めたことを、ダイム小説風にではあるが報道したのだ。

しかし、ケイトとジェイムスをいかに強制連行し、リンチに架けたかは訂正してはいるが、ケイト=娼婦で牛泥棒、ジェイムス=殺人犯については一言も触れていない。それどころか、正直な働き者の牧場主たちにケイトとジェイムスは脅しを掛け、牛泥棒を重ねていた、終いには、彼らの生命を脅かすような言動を繰り返していたから、リンチ組がやむを得なく立ち上がった、と一貫して牧畜男爵寄りの報道をしている。

一方の『シャイアン・デイリー・リーダー』紙も、翌7月26日の紙面で、ローリンズからの電報によれば…と断り書きを付け、カーボン郡のシェリフ、フランク・ハッセル(Frank Hadsell)がリンチ組を逮捕し、裁判所は保釈金を個々に5,000ドルとする旨言い渡したと報道した。だが、このエドワード・タワーズの記事にはリンチ組の名前はなく、またリンチ組を逮捕したのはフランク・ハッセルとしているが、実際に逮捕し連行したのはシェリフ、フィル・ワトソンでフランク・ハッセルは犯人引渡しに応じ、カーボン郡の拘置所に一時拘束しただけだった。また、実際に逮捕されたのは5人だけで、負傷しているジョン・ダブリンは自宅に留まることを許されている。

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カーボン郡のシェリフ、フランク・ハッセル(Frank Hadsell)。
実際リンチ組みを逮捕したフィル・ワトソンは役名は保安官補だったから、
すべての権限はフランク・ハッセルにあった。

『シャイアン・デイリー・リーダー』紙が26日に以上の記事を載せているから、25日にリンチ組の逮捕、引渡し、そして保釈金の設定が行われたことになり、すべてが異常なスピードで行われたのだ。一つにはカスパーからの巡回判事、エメリーが偶然ローリンズの町に居り、また即ローリンズを離れる必要があったからではないかと思われる。また、5,000ドルという当時としては天文学的な額の保釈金を言い渡したのは、判事はすでにこのリンチ事件の背後に”牧畜男爵“どもがいることを見越してのことだろう。こんな大金を即、積めるのは”牧畜男爵“たちしかいない。 

そして、27日の『シャイアン・デイリー・リーダー』紙で、タワーズは“正義を履行しよう”という大きな見出しの下に、確かにリンチは遺憾なことではあるが、牛泥棒を規制する法律も、実際に法を司る執行者も、正当に機能していない西部の辺境にあっては、牛に頼って生活している微力な牧場主や牧童たちに残された唯一の手段がリンチである…とリンチ組の擁護を臆面もなく展開している。

『シャイアン・サン』紙のスラックと『シャイアン・デイリー・リーダー』紙のタワーズは、どちらにしろ同じ穴のムジナで、彼らの頭には単によく売れる記事を書くことだけしかなく、そのためには牧畜男爵に組し、よりセンセーショナルに、グラフィックに事件を描く競争をしているだけだ。

このようなマスコミの一方的な報道によるしか事件を知る手段を持たないワイオミングの住人は、タワーズとスラックの記事を鵜呑みにするしかなかった。それが陪審員を潜在的に左右したと言い切ってよいだろう。

このダブルリンチ事件は異常な速さで東海岸、ニューヨークに届いた。女性をリンチに架けるのはそれだけでセンセーショナルな事件で、ニュースバリューがあったのだ。『ニューヨーク・ワールド』紙は25日に、内容はほぼシャイアンの2紙と同じだが、よりスキャンダラスにこの事件を書き直し掲載している。いったいあの当時、どのように事件を伝達していたのだろうか。事件の大筋だけを電報で打ち、後は記者、ライターが記事をデッチ挙げていたのだろうか。

その最たる例が、ゴシップ新聞の『ナショナル・ポリス・ガッゼット(National Police Gazette)』紙で、元々ダイム小説の新聞版のような紙面づくりだから当然だとも言えるが、第一面全部をケイトとジェイムスのリンチに充てている。また、紙面が振るっていて、“A Blaspheming Border Beauty Barbarously Boosted Branchward”とBで始まる単語を並べ、まるで作家の井上ひさし氏に英語を使わせたらこうなるのでは…という、プロレス新聞の見出し並みの書き出しなのだ。無理して訳せば”辺境の冒涜的な美女、残酷野蛮に吊るされる“とでもなろうか。

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『National Police Gazette』の一面記事

『ニューヨーク・ワールド』紙と『ナショナル・ポリス・ガゼット』紙は、全米の主だった都市に配送されていたから(鉄道のある町へは)、ダブルリンチ事件は全米に知れ渡った。地元の方が、むしろ沈着していた。

シャイアンは小さいながら政治都市(ワイオミングの首都)で、牧畜男爵が巣食い、政治力を効かせ、金にまかせてマスコミに圧力を掛けていたが、事件の起こったスイートウォーターの北東60マイルのところにあるカスパーの町の週刊新聞『カスパー・ウイークリー・メイル(Casper Weekly Mail)』は、事件が起こってから1週間経って、“この事件(惨事)は牛泥棒に関したものではなく、土地の所有争いが元である”と明記し、フランク・ブキャナンにインタヴューし、その見解を記事にしているのだ。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第2回:カルト・ケイト
~結婚と破綻、そしてワイオミングへ

第3回:カルト・ケイト
~ジェイムス・アヴェレルとの出会い
第4回:カルト・ケイト
~アンチ牧畜男爵的思想の芽生え
第5回:カルト・ケイト
~大牧場で富を独占していた牧畜男爵
第6回:カルト・ケイト
~牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソン

第7回:カルト・ケイト
~仕組まれたリンチ総決起集会
第8回:カルト・ケイト
~牛泥棒と決め付けられリンチへ

第9回:カルト・ケイト
~ジェイムスも一緒に連行される
 
第10回:カルト・ケイト
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第11回:カルト・ケイト
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第12回:カルト・ケイト
~用意されていた新聞記事?!

第13回:カルト・ケイト
~混同された二人のケイト

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