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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第19回:カルト・ケイト ~証拠不十分で全員無罪となるが…

更新日2017/10/12

 

重要な証人が一人もいない検察側は切り札を持たずに争った。第一、首に縄をかけ、吊るすのが過失致死になることからしておかしい上、チョット吊るして懲らしめようとしたのが行き過ぎて死んでしまった…とでも言うのだろうか。しかも、その過失致死さえ適応されず、全員無罪になったのだ。

01
判決文。早く言えば証拠不十分で無罪放免。
<ワイオミング州立博物館蔵>

ケイトの遺産公証人ジョージ・ドランが製作したリストでは、2頭の牛、4頭の馬(子馬を含む)15羽の鶏、料理用のストーブ、暖房用のストーブ、四つのドアと五つの窓のある丸太小屋、ベッド、マットレス、上掛け、台所用品、石の碾き臼、テーブル、6脚の椅子、食事用のナイフとフォークセット、吊り下げ用のケロシンランプ、装飾品はブレスレット一個、耳飾り1個、指輪2個、トランク1個、ワイヤーフェンス、200フィート(約60メートル)の床板(平方フィートのことだろう、土間ではなく小屋に床板が張ってあったということだろうか)と、当時の開拓民の平均的持ち物よりはるかに乏しい。

開拓民とはいえ、通常、馬具、馬車、馬に引かせる鋤、農耕のための道具、薪割り用のマサカリ、大型のノコギリさえないのだ。貴重な食料になるウサギ、野生の七面鳥を獲るための散弾銃もない。この遺品リストから判断すると、まさに赤貧洗うような生活をしていたと言い切ってよいと思う。ケイトは裁縫をよくしていたから、自分の衣類はすべて自分で作っていたのだろう。ジェイムスと結婚してからは、彼の農具を使っていたのだろうか。

私の連れ合いは中西部の百姓一家の出で、祖母はスカートやブラウスを手縫いで、小麦粉や砂糖が入っいてた袋布を使い、作っていたと話している。

ジェイムスの方の遺品リストはさすがにもっと多く、彼が相当の物持ちだったことが分かる。しかし、その多くをジェイムスはツケで買っており、支払いを済ませていないモノが多いのだ。したがって、彼の死後、それらはツケで売った人や業者に返すことになった。

ケイトの遺品リスト見て、すぐに気づくことだが、50頭近くいたはずの牛が2頭としか記載されていないことだ。そのことはケイトの遺産公証人ジョージ・ドランも知るところとなり、調査している。と言うより、調べるまでもなくリンチ組のダブリンとボスウェルが持ち去ったことが分かったのだ。牛泥棒の疑いでリンチに架けたケイトの牛をリンチ組が盗んでいたのだ。公証人はこの二人を告発し、判事はこの二人、ダブリンとボスウェルに1,100ドルの支払いを命じている。ダブリンとボスウェルは持ち主のいなくなった牛の面倒を看ていただけだと言っているが、当時、その地域での牧畜は完全な放牧で、世話をする必要など全くなかった。

彼らがケイトの牛を自分の牧場に追い込み、売りさばこうとしていたことは確かなことだ。ボスウェルの牧童ジョン・ザップは、彼のボス、ボスウェルのそのようなやり方に対し、強行に反対し、激しく言い争い、結果クビになっている。

02
ケイトが両親に送った写真。日曜日、教会に行く前にでも撮ったのだろうか、
ケイトが殺される数週間前の撮影と思われる。これがケイトの正装?で、
当時の習慣どおり帽子、ボンネットを被り、ワンピースのドレスを着込んで
いる。馬はヨボヨボと言ってよいほどの老馬だ。遺品リストに鞍が載ってい
ないところから、ケイトは乗馬用の鞍を持っていなかったと思われ、この写真
でも鞍なしの裸馬に跨っている。これがケイト最後の写真になった。

このコラムを書きながら、いつも不思議に思っていたことは、なぜケイトとジェイムスは殺されなければならなかったのか、彼らは本当に牛を盗んでいたのか、それがリンチに架けられるほど悪辣な行為だったのか、一体、リンチ組にしろ、ケイトとジェイムスが牛泥棒だと本気で信じていたのだろうか、そして、ケイトとジェイムスをリンチに架けた後、その罪、殺人罪から逃れることができると思っていたのだろうか…ということだ。

それには、リンチ組の面々がどのような人物であったかを知る必要がある。
ケイトとジェイムスを吊るす前にリンチ組の筆頭であるボスウェルは近隣の牧場主に集合をかけている。それが『シャイアン・デイリー・リーダー』の記事の20人ものランチャー(牧場主)という表現に繋がっているのだが、実際に“皆でやれば怖くない、皆でケイトとジェイムスを吊るそう”集会に集まったのは10人内外で、リンチを降りた牧場主、牧童も幾人かいた。集会に参加したが、コモンセンスというか、良識を働かせ、リンチに加わらなかったのだ。

強硬派、実行犯は6人だった。 
アルバート・ジョン・ボスウェル(Albert John Bothwell)。
彼は1855年アイオアで生まれ育った。彼の父親ジョージは、東部の大学(イエールかハーヴァードと言われている)で土木工学と法学を修めた裕福な商人だった。実際に東部の大学を出たかどうか明らかでないにしろ、彼がアイオア界隈では抜きん出た法的知識を持ち、それを駆使していたことは確かだ。アルバート・ボスウエルは父親のように、父親以上の成功を収めようとしていたとはよく言われる。アルバートにとって、成功とはお金と権力を意味し、父親が勝ち取っていた地元民の尊敬はその範疇になかった。アルバート・ボスウェルは手っ取り早く成金になる道を模索し、邁進した。中年以降特に酷くなる短気、些細なことに即激高する性格、許容量が少なく、独善的な狂気に近い気性は若い時分から現れている。

成人する頃、彼は南カルフォルニアへ行っている。1870年代のことだからまだ金鉱ブームの余韻が残っており、そのブームに絡んだのだろう。1880年にコロラドで合衆国政府からホームステッドの土地を貰い受け、3年後の1883年にロッキーの東側の土地を売り飛ばしている。ホームステッドの土地は2年以上開墾し住むと所有権が完全移行され転売できる。彼がどれほど真剣に牧畜業を営もうとしていたか疑わしい。だが、アルバート・ボスウェルは牛肉ショーバイがウマ味のある事業だと観て、自分の将来の道をそこに見つけたのだ。彼が土地に縛られた開拓民と全く違うのは、ホームステッドの土地を転売することで儲けようとしたことで、牛を育て、大牧場主になろうとは夢にも思っていなかったことだろう。彼自身はいかなる意味においても開拓民ではなかったし、カウボーイではなかった。言ってみれば、東部の商売感覚を、彼の場合は不動産屋の概念をワイオミングの開拓部落に持ち込んだのだ。

-…つづく

 

 

第20回:カルト・ケイト~アルバート・ボスウェル その1

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第5回:カルト・ケイト
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第7回:カルト・ケイト
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第9回:カルト・ケイト
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