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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第23回:カトル・ケイト ~トム・サン その2

更新日2017/11/09

 

イギリス人の富豪ジョン・ラエ・レイドとトムとの関係は、トムがいかに優れたハンティングガイドであり、信を置くに足る人物であったかを示している。

トムはジョンと山を回っている時、偶然から金鉱を発見した。本来なら、ジョンがすべての権利を取ってもいいところだが、ジョンはトムに権利の半分を譲り、正式に登記させている。そしてトムは、この採掘権を、当時、一介の罠師、ガイドとしては天文学的な2万ドルで売り払っている。

牧畜業の方は、2年続けて酷い冷害となり、トムも相当数の牛を失った。おまけに、その後もテキサス牛に押されて、ワイオミングの牛は暴落を続けた。だが、トムにはハンティングガイドという、実入りの多い副収入があった。ジョン・ラエ・レイドがお金持ち仲間にトムをハンティングガイドとして盛んに勧め、イギリスだけでなくヨーロッパ全土からトムを名指しでやってくるハンターが引きも切らなかったのだ。

ワイオミングは今も大型動物、ゲームハンティングのメッカだ。西には現在イエローストーン、ティトン国立公園になっているロッキー山脈が控え、かつ東のスロープには大平原が広がり、バッファロー、エルク、ムース、熊、マウンテンライオン、鹿などが季節ごとに山から平原へ、平原から山へと移動するので、大物トロフィーを狙うハンターの宝庫になっているのだ。トムは他の牧場主たちに比べ、ワイオミング肉牛危機を楽に乗り越えることができたと思う。

No.23
トム・サン、中肉中背の引き締まった頑強な体を持っていた。
この写真が撮られた時の年齢は40代のものと思われる。
張った顎と窪んだ目が意志の強さを思わせる
<カーボン郡歴史博物館>

トムはハンティングガイドを通じてアメリカ東部やヨーロッパからのお金持ちハンターの信用を得ていった。その中のエドウィン・C・ジョンソンというコネティカットの男が、遥かかなたのオレゴンに肉牛が市場のないまま放牧されているのに目を付け、その牛をワイオミングのスィートウォーターまで運んでくれば、そこから鉄道で東部に輸送でき、大きな商売になるとトムを仲間に引き入れたのだ。

この西から中西部へ牛を移動させる大掛かりなカトルドライブは成功した。2,800頭の牛をたった200頭死なせただけで、スィートウォーターへ運び込む込むことができたのだ。トムは優れたハンティングガイドであるだけでなく、大掛かりなカトルドライブの斥候かつリーダーであることを示したのだ。

ところが3,000頭近くの牛が毎日飲む水場がスィートウォーターリバーにはなかったのだ。ケチなホームステッダー、カトル・ケイトやジェイムスのような牧場主たちが川沿いの水場を押さえ、元々フリーレンジとして、トムが我が者顔にアクセスできたはずの河畔に牛を追い込むことができなくなっていたのだ。

トムは牛を出荷する前に、牛にたっぷり食べさせ、飲ませ、太らせる必要があったが、それが彼の目論見通りに行かなくなったのだ。ケイトたちの高々50頭足らずの牛のために、彼が苦労して運んできた3,000頭近くの牛を痩せたまま市場に出すことはできない。それにはホームステッダーの誰かを見せしめにして吊るすしかない…と、ボスウェルのリンチ組に自ら率先して加わったのだろう。

トム自身の地所は広大なものではないが、スィートウォーターリバー沿いで慎ましく暮らしていくなら十分な地の利もあった。彼は本来ならケイトたちのようなホームステッダー組に近い立場のはずだ。ところが、東部の資本家たちと懇意になり、トムは彼らの意向で動く存在になったのだと思う。

ケイトとジェイムスをリンチに架けた時、ボスウェルと事前に打ち合わせ、白塗りの無蓋の馬車を仕立てて馳せ参じているから、従犯というより主犯の一人といってよいだろう。

ケイトとジェイムスを吊るした同じ年に、トムはワイオミングでの最高のプレステージとされているWSGA(Wyoming Stock Growers Association;ワイオミング牧畜協会)のメンバーにボスウェルと共になっている。トムは地道に牧場を経営し、拡張していった。当時としては、享年65歳は長いといえるかもしれない。1909年、トムはデンヴァーで死んだ。

トムは中西部を罠師として縦横に歩き回り、ハンティングガイドとして成功を収め、安定した牧場主として十分に生きた。ただ、短絡的にケイトとジェイムスを殺した汚点は残った。彼が行くところはどこでも、“あのリンチャーのトム”と後ろ指を差されずに通りすぎることはできなかった。

トムの牧場は、現在、孫の代となり、続いている。

-…つづく

 

 

第24回:カトル・ケイト ~ロバート・コナー

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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