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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第26回:カトル・ケイト ~ロバート・M・ガルブレイス その1

更新日2017/11/30

 

もう一人のロバートが出てきて混乱しやすいが、こちらのロバート・ガルブレイス(Robert M. Galbraith)はキャプテンと呼ばれていたので、ここでもキャプテンで通すことにする。キャプテンと言っても船長さんではなく、彼の場合は地域鉄道のボスという意味合いでそう呼ばれていた。

キャプテン・ロバートは、1844年にスコットランド人の両親の元でイギリスで生まれた。ジョン・ダブリンより2歳若く、トム・サンの2歳年上になる。彼が5歳の時、両親と共にイリノイ州アルトンに入植した。そこで20代まで過ごしている。彼の学歴はハッキリしない。当時、まだ開拓部落のようなアルトンの村に学校らしきものもなかったから、恐らく教会の日曜学校と自宅で読み書き、算数、もちろん聖書を学んだ程度だったろう。

正規の学校教育を受けなかったが、キャプテン・ロバートは理数系に才能を見せ、南北戦争で北軍の一招集兵としては異例ともいえる鉄道技師を務めている。鉄道の技師の仕事は線路の敷設、引込線を効率的に利用し、戦争に必要な物資を前線に送り込み、それには燃料、石炭と水をどこで補給するというようなロジスティックな思考と頭脳が要求される。彼は余程その仕事に向いていたのだろう、そして非常に優秀だった。

南北戦争後、アメリカで一番大きな鉄道会社ユニオンパシフィック鉄道に引き抜かれるように就職した。はじめからオマハのヘッドクォーターに詰めているから、余程将来を見込まれたのだろう。

1869年、キャプテン・ロバートが25歳の時、ワイオミングのララミー管区の長に抜擢された。ララミーまでやっと鉄道が敷かれたばかりの時だった。この頃から、彼はキャプテンと呼ばれるようになった。現在では、ララミーの町はワイオミング州立大学がある大学町になっているが、昔から鉄道の要所になっていた。

次にキャプテン・ロバートは、ララミーから85マイル西にある、鉄道最前線の炭鉱町ベントンへ転勤になった。キャプテン・ロバートが着いた時、ベントンは町と呼べるようなところではなく、テント村といった方が当たっていた。ここでも西部開拓時代お決まりの鉄道最前線ブームに沸いた。最盛期には23のサロンバー、ギャンブル、娼婦の館(ダンスホールと呼んでいた)が5軒建ったというし、俄か仕立てのホテルも開業された。ベントンの町は文字通り雨後の竹の子のように、鉄道と炭鉱が生んだブームタウンになったのだ。今ではツワモノドモが夢の跡で、何も残っていない。

鉄道の最前線がさらに西のローリンズに移るにつれ、ベントンは急速にシボミ、忘れられた。次のブームタウンはローリンズだった。キャプテン・ロバートは、新天地ローリンズ管区のボスに任命された。彼は常に鉄道最前線にいたのだ。ローリンズの町の北30マイルほどにある、セミノール・インディアン居留地区に大きな炭鉱が見つかり、その開発にも関わっている。と言うことは、大掛かりな資本をバックに、セミノール・インディアンをほとんどゴリ押しするように発掘権をもぎ取ったのだ。

全くの想像だが、この時、キャプテン・ロバートははじめてスィートウォーター川沿いの牧地を目にしたと思える。すでに牧畜は、確実で儲けの大きい事業になっていた。1日ほどのカトルドライブでローリンズの町まで運べば、そこから鉄道で牛を東部やシカゴに輸送できることに目を付けたのだ。何も遥かかなたのテキサスから牛を移動させることはない、ワイオミングの方が、地理的に比較にならないくらい有利な条件を持っていると見越したのだ。

no.26-01
ロバート・ガルブレイス(Robert M. Galbraith)
彼はいかなる意味でもカウボーイではなく、技術畑の人間だった。
 

小さなエピソードだが、1878年7月29日の日蝕の時、トマス・エジソンをアテンドしている。まあ、鉄道局長は市長の次くらいに重要な役職だったし、エジソンは当然、鉄道でやってきたことだろうから、儀礼的な接待を仰せ付かったのだろう。きっかけ、動機はどうであれ、キャプテン・ロバートはエジソンを連れ、ローリンズ界隈を案内して回り、鱒釣りを楽しんだりしている。その時、エジソンの竹の竿が折れてしまい、その竿をキャンプファイアーで燃やした時、竹の繊維が長時間燃え尽きずに光を放っていたのが、後にエジソンが電球のフィラメントを創るヒントになったと言われている。

どうもキャプテン・ロバートは商売のセンスがあったとは思えない。彼が絡み展開したスミノールの炭鉱は予想したほどの埋蔵量がなく閉鎖されたし、鉄道に勤める傍ら、ローリンズで開いた鉄工所はショーバイにならなかったし、雑貨を扱う店も途中で売り払ったりしている。彼が牧畜に乗り出した一因は、ワイオミングの牧畜事業に将来性があると見越したこともあるが、多分にブレイクというカウボーイと懇意になり、吹き込まれたからだ。

鉄道をスッパリと辞め、ローリンズに持っていたビジネスのすべてを売り払い、シエラマドレ連山の麓に牧場を求め、開いたのだ。この地帯は非常に乾燥した、また冬の寒さの厳しいところだ。大きな利点は、広大な放牧地がただ同然の価格で手に入れることができたうえ、合衆国政府がオープンレンジとして所有している柔らかにうねる広大な台地が隣接していたことだ。彼はほとんど独占的に政府の所有する無限ともいえる草原台地をフリーレンジとして利用できたのだ。彼は牧場を『T Bar T Ranch』と名付け、牧畜男爵への道の第一歩を踏み出したのだ。

ところが、合衆国政府がオープンレンジとして放牧を許していた土地を、開拓民にホームステッドシステムを通じて160エーカーづつ分け与える方針を決めたため、それに今まで一牧童だった牧童や東部の人たちがこぞって群がり、タダの土地分譲にあり付こうとしたのだ。牧童たちは自分の妻は当然のことだが、親族や一族郎党の名前を連ねて、こぞって一人ひとりに振り分けられる160エーカーにあり付いたのだ。もちろん、土地勘のある牧童たち一族は水場の利があるところを争うように申請し、手に入れた。

キャプテン・ローバーはすでに広大な土地を所有していたから、ホームステッドに申請する権利さえなく、広いだけが取り得の乾燥した土地だけを所有することになったのだ。今まで放牧していたフリーレンジの利用範囲が格段に狭くなったのだ。

-…つづく

 

 

第27回:カトル・ケイト ~ロバート・M・ガルブレイス その2

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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