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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第546回:裏切りの空 - JAL 371便 羽田空港~福岡空港 -

更新日2015/04/02


2013年5月1日。羽田空港から福岡空港行きのJAL371便に乗った。フライトスケジュールは06時10分発、07時50分着予定。ゴールデンウィークの真ん中で、機内はほぼ満席である。早朝のせいか、荷物検査から搭乗までの流れは早かった。混雑する時期の旅は避けたかったけれど、今回は期限付きの航空券がきっかけだから仕方ない。

1ヵ月前、4月3日に乗った福岡発羽田行き、スターフライヤーが遅延した。スターフライヤーのキャンペーンの特典で無料航空券が付与された。帰りはその無料チケットを使うつもりだ。


早朝の羽田空港

私はこの権利を行使するつもりはなかった。3月から旅が続き、仕事も詰まってきた。片道無料と言っても、往復するなら、もうひとつ片道航空券が必要で、それは自費だ。旅の資金も心許ない。

しかし、4月の旅でJR九州を踏破したら、九州の残りの未乗路線は門司港トロッコと帆柱ケーブルカーの二つだけ。どちらも北九州市で、飛行機で行けば日帰りできる。むしろ泊まりがけで行くほどでもない。そうなると、片道無料の特典を利用して、さっさと行ってしまおうという気分になった。


日本航空で北九州へ出発

無料航空券の行使期限は権利発生から1ヵ月。5月3日である。溜まった仕事を優先させたら、行ける日程は5月1日だけになってしまった。航空運賃の値引きが少ない時期。航空会社のかき入れ時である。予約手続きをしつつ、なんだかスターフライヤーに申し訳ない気持ちになった。

そしてもっとひどいことに、往路の飛行機はスターフライヤーではなくJALだ。日帰りするからには、往路を早朝の便にしたい。そして、まだ行ったことがない北九州空港を利用したい。羽田発北九州行きはJALのほうが早い。スターフライヤーにとって、片道の無料券を行使して往復する客は、もう片道分の航空券を買ってくれるという期待があるだろう。それを見越しての片道無料キャンペーンではないか。私はそんなスターフライヤーの期待を無視して、行きはJAL371便、帰りは前回と同じSFJ58便という日程となった。裏切り者の仕業である。


富士五湖上空は快晴

今回の帰りの飛行機が45分以上遅れたら、また九州に来るだろうか。まさか……と思う。それにしてもスターフライヤーには本当に申し訳ない。遅延騒動で迷惑を被ったとはいえ、あの時は繰り上げ便に乗せてもらい、結局は予定通りだった。それだけに背徳感は拭えない。次に飛行機に乗る機会があったらスターフライヤーにしようと心に誓った。いつになるかは判らないけれど。

本日の東京は雨。羽田空港も地面が濡れ、飛行機の窓に水滴が付いている。列車の旅なら残念な感じだけれど、そこは飛行機である。雨雲を突き抜ければ晴天の空を眺められる。ひと月前の宮崎便は、右側の機窓に富士山が見えた。だから今回も右側の窓際を選んだ。連休ど真ん中の座席予約で、Webサイトで選ぶシートマップに空きは少なかった。


山脈上空を行く

数少ない右側席を選んだけれど、残念ながら富士山は見えない。飛行機は富士山の真上を飛んだ。アナウンスによると左側の窓から火口を望めたようだ。満員の機内では移動して眺めるわけにもいかなかった。飛行機のルート決定はどんな法則だろう。空に線路があるわけではないから、目的地に向かって最短距離になるとまでは想像できる。


名古屋駅と名古屋城

頭の中で、羽田空港を頂点とし、北九州と宮崎を結ぶ三角形を描いてみる。さらに機内冊子の巻末のルート図を見る。宮崎や鹿児島は太平洋上空になり、福岡や北九州、長崎は瀬戸内海のやや北になるようだ。そうなると、富士山のあたりでもかなりコースが異なる。


三原上空

富士山は見えなかったけれど、右側の景色も良かった。富士山の北側を見るから、富士五湖がよく見える。赤石山脈と木曽山脈の尾根に雪が残り、夏の到来を告げていた。平野に出て名古屋上空、真下に小牧空港が見える。そして広大な琵琶湖を望み、中国山地の南を飛ぶ。広島の扇状地、岩国空港が見えた。昨年(2012年)末から民間機の使用が始まった。降りてみたい空港だ。


呉港

高度が下がり始める。山口宇部空港は見えなかったけれど、航空自衛隊小月基地を見おろしつつ旋回して、飛行機は南へ向かった。高度はさらに低くなり、右の機窓に北九州空港の全容が現れる。海に浮かぶ長方形の島だ。いったん空港に沿って南下し、南側から着陸するようだ。飛行機は向かい風で着陸するというから、北風が吹いている。地上は肌寒いかもしれない。飛行機は見事な急旋回の後に着陸した。スポット到着は07時52分。ほぼ予定通りであった。


民間航路がはじまった岩国空港

北九州空港は2006年に開港した海上空港だ。それまでは九州本土、日豊本線の下曽根駅付近にあった。それを海上に移転して、現在は立派な道路橋で結ばれている。橋の向こうの最寄り駅は朽網駅。朽網駅まで路線なバスに乗り列車に乗り換えるくらいなら、小倉駅直行バスのほうが楽だ。鉄道好きのくせに横着をするようだけど、08時05分発の小倉駅直行バスに乗る。10分ほどしかないけれど、預けた荷物はないからスイスイと出口へ向かった。私の荷物はデイパックひとつ。ジーパンにトレーナーにスポーツ用ジャケットという、気軽な装いである。


北九州空港に到着

空港見物はしない。ただし、案内所にマンガ『銀河鉄道999』のメーテルの人形が立っているというから、それは見物した。北九州は松本零士が幼少時代を過ごし、初めてマンガを描いたゆかりの地である。その縁で、松本零士氏のキャラクターが街の要所に採用されているという。しかし、北九州空港の案内所に立つメーテルは酷い垂れ目で、少年時代に私が憧れた人の姿ではなかった。松本零士さんの絵と、そこから想像する私のイメージにはほど遠く、残念な姿であった。


メーテル……?

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

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デジタル時事放談
~コンピュータ社会の理想と現実
 
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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
杉山淳一 著


『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。』 ~日本全国列車旅、達人のとっておき33選~』

ぼくは乗り鉄、おでかけ日和
杉山淳一 著


『みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック (LOGiN BOOKS)』

みんなのA列車で行こうPC 公式ガイドブック
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