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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第652回:再訪は夏の景色 - 木次線 宍道駅~木次駅 -

更新日2017/12/21



午前4時に目覚める。さすがに早すぎる。豆腐やさんみたいだ。積極的に二度寝を試みたけれど、もう眠れない。昨夜の就寝は21時前。7時間も眠れば充分だ。ホテルの朝食開始時刻までたっぷり時間がある。ポメラで原稿を書き始めた。3時間でコラムを1本。

1階の居酒屋で朝食ビュッフェ。ごはんと味噌汁。パンにコーヒー。出雲蕎麦もある。おかずも和洋あって迷うけれど、明日も食べられるから品目は欲張らない。周遊コースばかり組む私にとって、宿に連泊する旅は珍しい。着替えや充電器など、宿泊用装備も置いていける。今日は身軽な旅ができそうだ。


今日と明日の拠点は出雲市駅

出雲市の窓口で青春18きっぷを買う。券売機でクレジットカードを使えば、相変わらずたくさん紙片が出てくる。きっぷは1枚だけだ。窓口で検印をいただき、高架ホームへ上がった。隣の線路に岡山行きの特急やくも10号がいた。国鉄時代に作られた381系電車は、近くで見るとかなりくたびれていた。

08時39分発の普通列車は、通称タラコ色のキハ47形だ。こちらも国鉄の遺産のような気動車だけど、洗車したばかりのようで車体に光沢がある。居合わせた老婆に「これは米子へ行きますか」と訊ねられた。この列車の終点ですと言うと、ほっとした表情で乗り込んだ。私も後に続く。

02
タラコ色で出発

発車まで時間があり、やくも10号が先に行ってしまうと見るものもない。旅先でスマホゲームを遊ぶとは野暮だけど、ポケモンGOを起動してみた。とくに目新しいモンスターはいなかった。最も近いコラッタをゲットしようとしたら、捕獲する道具のモンスターボールがなかった。画面ではなく景色を見よ。よろずの神の誰かに諭された気がする。

気動車は山陰本線を元気よく走り、2駅目の荘原で対向列車の待ち合わせとなる。神様に内緒でポケモンGOを起動すると、近くにポケストップがあった。モンスターボールを3個獲得。2両編成の特急列車が通り過ぎていく。鳥取発益田行き、スーパーまつかぜ1号。いつか乗ってみたい列車である。いや、もっと長距離のスーパーおきのほうがいいかな。

03
スーパーまつかぜとすれ違う

宍道駅08時59分着。米子へ行く老婆の無事を祈りつつ、階段を上がって降りて3番線へ。木次線の気動車もタラコ色だ。ただし車体はひとまわり小さなキハ120形。座席はすでに埋まっている。鳥取からスーパーまつかぜ1号で来た人々だろう。やがて益田発のスーパーまつかぜ6号が到着し、数人の乗り換え客があった。

09時10分。定刻に発車する。車内は旅行者風のオジサンばかり。私もそのひとりだ。おじいさんが数人、清楚な印象の女子高生がひとり。夏休みだと思うけれど、登校日だろうか。そして運転士が2名乗っていた。車内放送で、今日は木次駅からトロッコ列車を運行するという。営業熱心だなと思ったら、そのあとで、従って、この列車は本日は木次で打ち切りです、と続いた。お詫びと釈明かもしれない。

04
木次線もタラコ色

4ヵ月前に初乗りし、今回が2度目の木次線である。3月の車窓は早春。色あせた茶色の風景に、若葉がちらほらと顔を出す程度だったと思う。今日の車窓は緑色が濃い。上り勾配と森の中。左右に緑の壁ができている。おじさんたちは立ち上がって前方注視。その気持ち、よくわかる。視界が開けると標高が上がっている。

さらに進むと盆地が広がる。加茂中駅を過ぎて、列車の速度が上がった。田畑と民家が増えている。ときどき野焼きをやっている畑があって、列車は煙を浴びる。車内が一瞬、焦げ臭くなる。農家に育った人は、これもふるさとの香りかな、と思う。幡屋駅で女性が3名乗車。一人は車で送ってもらったようで、しばらくドライバーに挨拶していた。

05
夏の景色、水田も青く

出雲大東駅のそばに大きな病院がある。ここでおじいさんが降りた。雲南市立病院と出雲大東駅は、初めて木次線に乗ったときに印象に残った。木次線を必要とする人がいる。それをわかりやすく示してくれる景色だ。

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丘も緑が濃くなっていた

07
前向きなオジサンたち

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森を掻き分けるように進む

09時43分。木次駅着。今回は役所からの出迎えはなく、私の旅という感じがする。3ヵ月前と同じように駅前のショッピングセンターに入り、また靴を買ってみようかと思ったけれど、奥出雲おろち号の発車まで24分。買い物は無理だな。トロッコ列車の旅に期待しつつ、駅前と駅舎、構内を散策。列車の入線を待った。

今回の旅の目的は、木次線の完乗だ。3ヵ月前は雲南市と奥出雲町に呼んでいただき、三井野原で降りてドライブの沿線案内となった。良い経験をさせてもらったけれども、三井野原から備後落合までの未乗区間は心残り。喉に引っかかった魚の骨のような、2枚だけなくしたトランプで遊ぶような心境だった。それが今回の旅で決着する。

09
木次駅に到着

そして、木次線と言えばトロッコ列車、奥出雲おろち号だ。3ヵ月前は観光シーズン前で走っていなかったから、再訪するなら乗ろうと思っていた。これで木次線の念願二つが叶う。曇天が少し残念だけど、雨よりはずっとマシである。今日はトロッコ列車日和だ。

木次駅には車庫が併設されている。奥出雲おろち号は側線で待機している。凸型のディーゼル機関車に客車が2両。青と白の斜めの塗り分けが、3両をきれいにまとめている。老朽化と聞いていたけれど、その姿は美しい。宍道から乗ってきたおじさんたちもカメラを向けていた。

10
奥出雲おろち号が待機中

-…つづく


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。月刊文藝春秋「乗り鉄うまい旅」連載。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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