第四十四回
風姿花伝 その六
花修云(かしゅうにいわく) その三の一
能においては、強き、幽玄、弱き、荒き、を知ることが大切である。これらはだいたいのところは、見て分かるようなことであって、簡単なことに思われるかもしれないが、この真実を知らないがために、弱き為手、荒き為手になってしまうことが多い。まず、どんな物まねにおいても、本当の物まねになっていない部分で、荒くなったり弱くなったりすることを知らなければならない。しかしその境を知るのは難しく、よほど工夫を凝らさなければ、見分けがつかない。よくよく心の底にあるものの違いを見極め、良く考え、習得すべきことである。
まず、弱くあるべきところを強くするのは間違いであって、これが荒きである。強くあるべきところを強く演じるのは、これは強きであって、荒きではない。もし強くあるべきところを、幽玄にしようと思ったとしても、物まねがちゃんと出来ていなければ、幽玄にはならず、弱き能になってしまう。したがって、物まねに心を任せてそのものになり切って偽りがなければ、荒くも弱くもならない。また、強くあるべきところも、あるべき道理を越えるほどに強くては、ひどく荒き能になってしまう。また幽玄であるべき動作を、より優しくしようとすると、これもまた、弱き能になってしまう。
第四十五回
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