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■現代語訳『風姿花伝』
  ~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2012/02/23



第四十五回
風姿花伝 その六
花修云(かしゅうにいわく) その三の二

 

 弱き、強き、幽玄、荒き、の違いは何かということを考えて見ると、たとえば、幽玄と強きとが別のものだと思うからこそ、そこに迷いや誤りが生じる。この二つの違いは、表す実体の違いあって、たとえば、人間で言うならば、天皇のお世話をする女御や更衣、あるいは、遊女や美女、草木で言えば花に類するものは、そのありようがそもそも幽玄である。また、武士(もののふ)や荒夷(あらえびす)や鬼や神、草木で言えば、松や杉などは、強きものというべきで、このような万物に似せようと思えば、幽玄の物真似(ものまね)をちゃんとやれば幽玄になるし、強きものは自ずと強きになるものである。

 このもともとの違いというものを考えないで、ひたすら幽玄を演じようと思っても、物真似がちゃんと出来ていなければそうなるはずがない。実体に似ていないことを知らずに、幽玄にするぞと思う、その心が弱きということになる。つまり、遊女や美男などの物真似を良く似せさえすれば、自ずと幽玄になるのであって、とにかくひたすらに似せようと思うことこそが大事である。強きことも同じであって、良く似せさえすれば、自ずから強き能になるものである。

 


 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つ の表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
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