第四十五回
風姿花伝 その六
花修云(かしゅうにいわく) その三の二
弱き、強き、幽玄、荒き、の違いは何かということを考えて見ると、たとえば、幽玄と強きとが別のものだと思うからこそ、そこに迷いや誤りが生じる。この二つの違いは、表す実体の違いあって、たとえば、人間で言うならば、天皇のお世話をする女御や更衣、あるいは、遊女や美女、草木で言えば花に類するものは、そのありようがそもそも幽玄である。また、武士(もののふ)や荒夷(あらえびす)や鬼や神、草木で言えば、松や杉などは、強きものというべきで、このような万物に似せようと思えば、幽玄の物真似(ものまね)をちゃんとやれば幽玄になるし、強きものは自ずと強きになるものである。
このもともとの違いというものを考えないで、ひたすら幽玄を演じようと思っても、物真似がちゃんと出来ていなければそうなるはずがない。実体に似ていないことを知らずに、幽玄にするぞと思う、その心が弱きということになる。つまり、遊女や美男などの物真似を良く似せさえすれば、自ずと幽玄になるのであって、とにかくひたすらに似せようと思うことこそが大事である。強きことも同じであって、良く似せさえすれば、自ずから強き能になるものである。
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