第五十五回
風姿花伝 その七
別紙口伝 その四
能では十體(じってい)、すなわちあらゆる物まねを心得るようにしなければならない。十體を体得した為手は、いろんな曲を順番に演ったとしても、一回りするあいだに時が過ぎるので、観る人は、たとえ同じ曲を観たとしても新鮮に感じる。
またそのような人は、一つの曲に対しても、昔はどのような作法や振る舞いで行われていたのかという故実を学んだり、工夫をしたりするので、同じ曲が観る者の目には百色にも映る。だからまずは同じ曲は五年か三年に一回だけ演るようにして、常に新鮮に目に映るように工夫するとよい。このことは新鮮なものになっているだろうかなどということを気にせず心安らかに演じるためにも大切なことである。
また、一年のうちの四季の折々のうつろいとのかねあいのことも心掛けるべきで、さらには、何日かにわたって申楽を演じる場合にも、その日一日の演目はもちろん、全体として何をどのように演じ、どのような彩りをもたせるかも工夫しなければならない。
主殿の前の広い大庭でのはれ舞台はもとより、小さな催しの時にも、そのようなことを自然に心掛けることができるようになれば、生涯にわたって、花を失うことはないであろう。
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