のらり 大好評連載中   
 
■現代語訳『風姿花伝』
  ~世阿弥の『風姿花伝』を表現哲学詩人谷口江里也が現代語に翻訳
更新日2010/04/01



第十一回
風姿花伝 その二
物學(ものまね)のいろいろ
老人


 老人の物學(ものまね)は、この道の奥儀(おうぎ)といってよい。能の位(くらい)というものは、どうとりつくろったところで、自ずと外目に現れるが、老人の物學(ものまね)の善し悪しは、見ていてすぐに分るものなので、とりわけ大事にしなければならない。

 とにかく、能をよほど極めたといえるような為手であっても、老いた姿に関しては、ちゃんと会得していない人が多い。たとえば、木樵(きこり)や潮汲みの老人の態(わざ)ものなども、老いた翁の姿に似せてあるのを見て、それで上手くできているなどと評するのは誤った判断であって、頭にかぶる冠(かぶり)や、貴い人の直衣の(うしや)烏帽子(えぼし)、あるいは、もともとは高貴な人々が狩りをするときの衣裳であったけれども、最近は礼服として用いられる狩衣(かりぎぬ)などを身にまとった老人の姿などというものは、よほどそれに見合った人でなければ、決してそれらしくは見えず、長年の稽古を重ねて、能の位そのものが上にある人でなければ似合うものではない。

 なおかつ、それに加えて花がなくては、観ていて面白くもない。大体において、老人の立ち居振る舞いというものは、年老いているわけだから腰や膝をかがめ、体もちじこまっているので、花も失せ、なにやら古くさい感じを与えて、どうしても見所には欠ける。

 そこで、基本的には、とにもかくにも見苦しさを感じさせない、しとやかな立ち居振る舞いをしなければならない。だから老人の舞いというのは、このうえなく大事にしなければならないものであって、花はあるけれども年よりに見えるよう工夫をして、それには何が必要かということなどをよくよく公案し、そのためにはどうすればよいかということを細かに伝える先達の口傳(くでん)などもあるので、そのようなことも習わなければならない。つまり、老人の物まねというのは、枯れ木に花を咲かせるようなものだと言ってよい。

 

 

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 


谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
著者にメールを送る

詩人、ヴィジョンアーキテクト。言葉、視覚芸術、建築、音楽の、四つ の表現空間を舞台に、多彩で複合的なクリエイティヴ・表現活動を自在 に繰り広げる現代のルネサンスマン。著書として『アトランティス・ ロック大陸』『鏡の向こうのつづれ織り』『空間構想事始』『ドレの神 曲』など。スペースワークスとして『東京銀座資生堂ビル』『LA ZONA Kawakasi Plaza』『レストランikra』などがある。
Elia's Web Site [E.C.S]

■連載完了コラム
岩の記憶、風の夢~my United Stars of Atlantis [全57回]

もう一つの世界との対話~谷口江里也と海藤春樹のイメージトリップ [全24回]

鏡の向こうのつづれ織り~谷口江里也のとっておきのクリエイティヴ時空 [全24回]


随想『奥の細道』という試み ~谷口江里也が芭蕉を表現哲学詩人の心で読み解くクリエイティヴ・トリップ [全48回]


バックナンバー

■更新予定日:毎週木曜日



  TOP-トップページ》 《コラム一覧 》 《のらりインタビュー》 《コラム・バックナンバー
……………………………………現在連載コラム……………………………………
新・汽車旅日記 】 【店主の分け前 】 【フロンティア時代のアンチヒーローたち ~西部女傑列伝5
 【亜米利加よもやま通信 】 【ひとつひとつの確かさ 】 【よりみち
………………………………掲載完了イチオシコラム………………………………
[拳銃家業 ] [貿易風の吹く島から ] [ くらり、スペイン ] [グレートプレーンズのそよ風 ]  
  [フロンティア時代のアンチヒーローたち ]

     

このサイトに関するご意見・ご感想・お問い合わせはこちらまで。
Copyrights 2017 Norari