第十五回
風姿花伝 その二
物學(ものまね)のいろいろ
修羅(しゅら)
これもまた、能における物學(ものまね)の一つのかたちではあるが、よく演じたとしても、面白みを表現できることは稀であって、それほど演じるべきではない。ただ、源平の物語のなかの、有名な人のことを、花鳥風月によせて上手に演じれば、何より面白いものにもなりうる。この場合には、あえて花やかな場面を入れ込む方がよい。しかしこの修羅というかたちの狂いは、下手をすると、鬼の振舞のようになってしまいかねない。ただ、これは舞(まい)のひとつのかたちにはなりうるので、とりわけ、曲舞(くせまい)の要素を入れ込むならば、それなりの舞(まい)をつくりだすためはよいかもしれない。
また弓や、矢を入れる筒状の胡?(やなぐい)などを携え、刀などの打物(うちもの)で飾ることで花やかさを出そうとする場合には、それらの持ち方や使い方をよくよく考え、争いごとや闘いに狂ってしまう修羅ということの本意が反映されるように働(はたら)く必要がある。とにかく細部にまで気を配り心を構えて、くれぐれも鬼の振舞にならないよう、またふつうの舞(まい)になってしまわないよう、用心しなければならない。
|